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2009年1月25日 (日)

本 「淋しい狩人」

宮部みゆきさんのミステリーは、市井の人々を探偵役にしているものが多い。
本作では古本屋の店主であるイワさんという老人がその役回り(ワトスン役は孫の稔)。
古本屋の店主と言っても、某シリーズの中野の古本屋のように博覧知識で事件を解決するのではありません。
宮部さんに登場する年配のキャラクターというのは、その人生で学んできた人間を見る眼、人間性の良いところも悪いところもわかっている、つまり酸いも甘いもわかっているというところがあります。
その人間を見る慧眼によって、イワさんは事件を解決していきます。
宮部さんのミステリーには、悪意というものの固まりのような犯人が登場することがよくあります。
自分のために他人を犠牲にすることを厭わない人間が。
若いと、まだ理想主義的なところがあり、そこまで他人を傷つける人など本当にいるのかと思ってしまいがちですが、イワさんはそれも人間の側面としてもっているということを知っているように思えます。
人間というものはきれいごとばかりではないということを。
本作でも「うそつき喇叭」というエピソードはそういう側面を、ぐっとえぐっているような気がします。
また孫の稔が夜中に出歩くようになったときイワさんはこう言います。
ちょっと引用します。

「おまえのことは信用しているよ」と、イワさんは辛抱強く言った。「だがな、おじいちゃんも、おまえの父ちゃんもおっかさんも、いざという時、なにか良くないことがある時には、おじいちゃんたちがおまえに寄せる信頼なんかふっ飛ばされてしまうような勢いで、事が起こるってことを知っている。そういう瞬間風速の前では、家族の信頼なんて脆いもんだ。それくらい、世の中というのは何が起こるかわからないところなんだよ」

若いと信用してくれとか、してくれないとかそういう白黒をはっきりしたようなものの感じ方をします。
たぶん世の中というものをとてもシンプルに見ているのでしょう。
けれど実際の世の中というのはそれほどシンプルであるわけもなく、割り切れるものではありません。
それをイワさんは知っているように思えます。
けれどもそれを頭ごなしに孫に言うのではなく、噛んで含めるように説明するところがまたこれは年配者の知恵なんだろうと感じました。
宮部さんの小説には陰惨な事件も多いですけれど、こういうキャラクターが出てくるから何故か安心して読めます。

「淋しい狩人」宮部みゆき著 新潮社 文庫 ISBN978-4-10-136917-4

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コメント

藍色さん、こんばんは!

fc2はうまくTBができない場合があるようで、ご不便をおかけしてすみません。
こちらからもTBさせていただきましたので、よろしくお願いします。

投稿: はらやん(管理人) | 2009年6月 6日 (土) 20時30分

こんばんは。
トラックバックさせていただきました。
表示されないようなので、URLを置かせていただきますね。
http://1iki.blog19.fc2.com/blog-entry-941.html

トラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。

投稿: 藍色 | 2009年6月 5日 (金) 04時21分

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