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2008年11月 1日 (土)

本 「廃用身」

現役医師の作家というと「チーム・バチスタの栄光」などの著作がある海堂尊氏が有名ですが、本作の久坂部羊氏も、医師であり作家であるという方です。
海堂氏の作品は医療の世界を扱っていながらも、かなりエンターテイメントよりですが、久坂部氏の作品はより医療に対する問題意識が高い作品となっています(けれども小説としておもしろくないわけではありませんが)。
タイトルにある廃用身というのは、脳梗塞などで麻痺が起こり動かなりその回復の見込みがたたない手足のことです。
本作の主要人物である漆原という医師はその廃用身を切除することにより、患者自身への負担、また介護スタッフへの負担を軽減させてよりよい介護環境を作ろうと考えます。
動かない手足を切断という方法はかなりショッキングです。
それが是か否かというのは小説の中でも双方の視点で語られていますが、一番この作品を通じて作者が訴えたかったのは、現在の介護環境の劣悪化だと思います。
本作品が発表されたのは2003年ですが、それ以降も介護に関しては制度は改悪されていていますし、介護会社の破綻(コムスンとか)や、介護士の不足など将来に向けての不安はさらに増しています。
この作品の中で作者が登場人物の口を借りて言っているのは老人問題を若い世代の問題にしなくてはいけないということです。
若い世代にとって老後というのはまだ先の遠い話のように思えます(自分も含めて)。
けれども現在の医療や介護の制度を作っている政治家、官僚というのはすでに50代、60代の人々で彼らはそれらの制度が崩壊してしまうときには生きていることはないのです。
とりあえず自分の老後さえ大丈夫ならばその先のことはどうでもよろしい、そんな感じすらあります。
そういうことを防ぐためにも老後の福祉という問題については、若い世代が自分ごととして認識することが必要なのでしょう。
今年か来年か必ず総選挙があると思います。
その際、各政党の医療問題、福祉問題に関する取り組みの考え方を投票のポイントにするというのはありかもしれませんね。

「廃用身」久坂部羊著 幻冬舍 文庫 ISBN978-4-344-40639-7

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コメント

Agehaさん、こんにちは!

こちら、デビュー作とは思えない構成力ですよね。
前半の医師の手記は、なんだかそういう方法も正しいかもと思わせるほどの説得力がありました。
それを反転させて、現代医療、介護の課題を明らかにする後半の構成はなかなか見事でした。
「破裂」も以前読みました。
こちらもかなり重い話だったと記憶しています。
次は「無痛」にチャレンジしてみようと思います。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年11月 8日 (土) 06時49分

rose_chocolatさん、こんばんは!

この作品、前半1/3が切除療法を勧めようとした医師の手記で、それを読んでいるとそういう療法もあるんではないかと説得されそうになります。
後半はそれに対するいかがわしさみたいなものが出てきていろいろ疑問が起こるのですが、そういうショッキングな展開によって、なかなか若い人が気にしない介護にたいして目を向けさせよう、考えさせようというところがこの作品のスゴいところです。
読むのにエネルギーはいりますが、一気に読ませる力もある作品ですね。
これがデビュー作というから驚きです。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年11月 6日 (木) 20時29分

もしかしたら、目覚めるかもしれない、
リハビリで動くかもしれない、
そんな奇跡を思うのは
他人事だから言えるのか、
どんなキツイ介護よりも愛が上回るからか。
実際自分が直面したら、
介護する側であってもされる側であっても
投げ出したくなるかもしれない。
この医師の是非を問うのは難しいですね。

この人はコレがデビュー作で
「破裂」上下巻があり、
現在文庫では「無痛」という新作が
大ヒットしています。
今そうでなくても、海堂さんが巻き起こした
医療ミステリーのブームと
それから病院てものに対する不信感が増すばかりの
ニュースを毎日のように見ているので
このての本はとてもとても注目度が高いです。
(本屋のコメントですいません・・・笑)

投稿: Ageha | 2008年11月 6日 (木) 17時46分

「動かなくなって、もうあってもしょうがないし、介護の邪魔だから切断したって構わないんじゃない?」っていう趣旨なのかな?
たとえ動かなくても手足は手足だと思うのですけど。
もしも、動くようになったとして、その時に手足がなかったら一体どうするんでしょうね。
うすら寒くなるお話ですね。

医療問題だけじゃなくて年金問題でもそうよね。今だけ帳尻があっていればそれでいいって。万事がこれです。。。

投稿: rose_chocolat | 2008年11月 4日 (火) 13時36分

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