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2008年10月25日 (土)

「その日のまえに」 残す人、残される人、互いに想う

死の告知を受けた妻とその夫の物語、映画を観る前の情報はそれくらいしか入れていませんでしたので、死を扱うテーマだけにやや重い映画であるのだろうと覚悟して観賞しました。
でも始まってみると思いのほかも明るいトーンで、最初はややとまどいました。
最後まで観終わるとその明るさみたいなものに意味があるのがわかります。

告知を受けた妻、とし子(永作博美さん)と夫の健大(南原清隆さん)は、一時退院の日に夫婦が初めて住んだ街を訪れます。
この時の二人はまるでつき合っている時の恋人同士のよう。
なかよく手をつなぎながら、いっしょに暮らし始めた頃の思い出をたどっていきます。
死を前にしているのに、とし子のように明るく振る舞えるものなのかと最初は思いました。
この明るさは彼女がとても無理をしているものなのではないか、とも。
少しは無理をしていないわけではない。
けれど最後までこの物語を観て、とし子はほんとうにそれまでの夫と子供たちと暮らしてきた生活が幸せだったのだろうと思いました。
新婚時代の街を訪れたとき、駅前は二人が住んでいたときと様変わりしていました。
ごちゃごちゃとしていた商店街はなくなり、そこはバスのターミナルになっていました。
健大が「残念?」と聞くと「なくなっていて良かったかも」ととし子は答えます。
楽しかった思い出が変わってしまったのを見てしまうよりも、ずっと心の中で残っているのが良いととし子は思ったのでしょう。
とし子は病院に入院してからも、子供たちがお見舞いにくることは許していませんでした。
自分が死んでしまうことを知ってしまうことによって、子供たちが悲しみにくれて欲しくなかったのです。
彼女は夫や子供たちが自分の死を知ったあとも、そして死んだ後もずっと悲しみ続けることを望んでいませんでした。
とし子にとって、夫が仕事をしている姿を脇で観ていて、子供たちが自分の手料理をおいしそうに食べているのを観ていて、そういう楽しい一瞬一瞬が幸せだったのでしょう。
その幸せな時間を、自分の死によって失いたくないというのが彼女の気持ちだったような気がします。
彼女が家族に残したかったのは、悲しみではなくみんなが笑顔で暮らしていける普通の日々だったのだと思います。
だから最後の手紙の言葉が「忘れてもいいよ」だったのでしょう。
たぶん夫の健大もそういう妻の気持ちをわかっていたと思います。
だからこそ彼女の前では明るくいつのものように振る舞っていました。
彼女が望んでいるのは、悲しむことではなく明るく笑顔で暮らしていくことだから。
残す人も、残される人も、「その日」を迎えるそのときまでずっとお互いに相手のことを想っている、この夫婦がとても羨ましい。
ときどき挿入される宮沢賢治と妹とし子の描写、そしてクラムボンの歌がそのような健大ととし子の関係を暗示していてこれも良かった。
そういうふうに互いに想い合っていられる生活こそが幸せなのですね。

大林宣彦監督の作品はとても久しぶりでした。
この作品を観て思い出したのは「異人たちの夏」。
確かあの作品も、死んだ両親の若い頃に子供が会うという話だったような気がします。
「死」と「生」が交錯するようなちょっと幻想的な世界というのが、なにか雰囲気が似ていたような気がしました。

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コメント

rose_chocolatさん、こんばんは!

原作は泣ける作品なんですね。
観る前はその手の映画かと思っていたのですが、独特な軽妙さもあり、泣くという感じではなかったですよね。
時間が前後したりとか、現実と空想が混ざったりというのは、大林監督らしなあと思いました。
最近の大林監督の作品はあまり観ていないのですが、昔の作品はこういう雰囲気ありましたよね。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年10月29日 (水) 20時25分

こんばんは~。
これは原作を読んだ人に伺うと、かなり映画とは雰囲気が違うみたいです。
本読んで、泣けて泣けてしょうがなかったってみなさんおっしゃってるんですけど、映画では私は全く泣けませんでした (^-^;

私はこれ、かなり違和感残っちゃいました。ところどころ入ってくる、時系列が違う設定とか、空想シーンなんかがね。もうちょっととし子さんの気持ちとか観たかったかな。

投稿: rose_chocolat | 2008年10月29日 (水) 00時24分

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