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2008年9月 6日 (土)

「落語娘」 真打ちには及ばない

昨年あたりから「しゃべれども しゃべれども」とか「やじきた道中 てれすこ」とか落語を題材にしている映画が多いですね。
落語といえば、笑いとそして人情味。
冒頭にあげた二作品もそういうテイストを持っていましたが、本作はそれに加えてミステリーの要素も入っているのがユニークなところです。
ミステリーの作品では、しばしばホームズとワトソンなどのように二人組が登場します。
本作では主人公香須美(ミムラさん)とその師匠三々亭平佐(津川雅彦さん)が、そういう役回りになります。
ミステリーの二人組というのは対照的なキャラクターであることが多いですが、これは謎をまるで違った視点で観ることにより真相が明らかになっていくという醍醐味を出すためでしょう。
本作も若いしっかりとした勝ち気な女性の香須美、老齢でちゃらんぽらんな老爺の平佐とまさに対照的な設定。
ミステリーの部分もさることながら、この師匠と弟子の関係とやりとりは落語本来の笑いと人情を出すことにも繋がっているかと思います。

と設定自体はしっかりとされている感じはしますが、笑いと人情とミステリーという三兎を追っている本作はどれも追いきれていない印象が残りました。
笑いとしては劇中で披露される落語の古典(寿限夢とか)でとれますが、映画本体として笑いが多かったかというとさほどではないような気がします。
人情という点でも師匠と弟子の関係で感じなくもないですが、「しゃべれども しゃべれども」ほどではありません。
この作品のユニークな点としてあげられるミステリーとしての盛り上がりもややもの足りなかった印象です。
ミステリーのオチ自体は悪い出来ではないと思います。
なるほど、と手を打ちたくなるオチだったのではないでしょうか。
ミステリーというのは、謎が解くことは不可能そうだと観ている者に思わせて、それが解決してしまうということに醍醐味があるかと思います。
本作はその深い謎というのがいまいちその深刻度が伝わりきれていない。
封印された落語のネタを披露するとその噺家は死んでしまう設定をもっと深刻に、というより観客にリアリティがあるように伝えなければラストのカタルシスは得にくいと思います。
つまり平佐がその落語をやらないわけにはいけなくなるという強い動機、そしてそれにより死んでしまうかもしれないと思わせるリアリティが必要なのです。
そしてそれがしっかりと組み上げられていればいるほど人情話としても、もっとほろりとした気持ちにさせられたはずです。
そのあたりの切迫さがやや薄かったように思います。
そのためラストでのヤラレタ感も薄くなってしまったように感じました。
繰り返しになりますが、ミステリーのアイデアとしてはおもしろいと思います。
落語というのは最後のオチのひとことが効きます。
それを効かすにはそれまでの組み立てが大事であり、それが噺家の力なのだと思います。
そういう意味では本作、真打ちには及ばなかったような気がします。

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