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2008年7月 6日 (日)

本 「さよならバースディ」

まったくの偶然だが、続けて読んだ本に「さよなら」という言葉がタイトルについていました。
こちらの「さよなら」のバースディとはボノボという猿の一種の名前。
バースディは霊長類研究センターで類人猿の言語取得に関する研究の研究対象です。
この研究センターではバースディに人間の言葉を教えようとしていて、バースディは100語弱の言葉を習得しています。
田中真はもともとプロジェクトを立ち上げた教授を自殺で亡くし、それ以降このバースディ・プロジェクトを実質的に取り仕切っている。
そしてそのプロジェクトをいっしょに行っている大学院生由紀と付き合い、そしてプロポーズをしていた。
順風満帆かと思っていたそのとき、以前教授が自殺したその場所で婚約者の由紀も自殺をした。
その現場にいたのは、バースディのみ。
彼女が死んだのは自殺なのか、事故なのか、殺人なのか。
真は、事件を見ていたバースディとの100語にも満たない言葉だけによるコミュニケーションによりその事件の真相を知ろうとする。

この作品、サルとのコミュニケーションにより事件を解くというのが、ミステリーとしてもなかなかのアイデアであると思います。
でも読んでいてぐっとくるのが、愛している女性由紀を失ってしまった真の気持ちだ。
由紀は真がプロポーズをしたその日に死んだ。
彼女もプロポーズを受けてくれたと思ったのにも関わらず。
ほんとうに自分は、彼女の気持ちを知っていたのか、自殺するほどの悩みを抱えていたのかと真は悩みます。
研究所の周りの人間は、事件が起こると掌を返すように、真やバースディ・プロジェクトに接する。
それまではプロジェクトが資金援助のネタとしてふさわしいと考えて担いでいたのに、それがなくなると皆が中止を訴える。
人と人の気持ちの通じなさ、その空しさみたいなものを真が感じているのがひしひしと伝わってきます。
それに対して真とバースディの間には、言葉や種を越えた信頼感みたいなものを感じます。
人と人よりも、人と猿の方が気持ちが通じる。
人というのはなんなのだろうと思ってしまいます。

最後、由紀の本当の気持ちが真に伝わります。
そこで何か救われたような気持ちになりました。

「さよならバースディ」荻原浩著 集英社 文庫 ISBN978-4-08-746295-1

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コメント

サラさん、こんにちは!

ミステリーなんですけれど謎解きよりも、由紀を失った時の真の切なさの方が身につまされました。
文庫化されたのはつい最近だったはずですので、まだ店頭に並んでいると思います。
ぜひぜひ。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年7月 6日 (日) 15時46分

こんにちは^^
この本、すごく読んでみたいと思いました。
文庫本のようなので、買ってみようかな

投稿: サラ | 2008年7月 6日 (日) 13時59分

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