本 「磯崎新の『都庁』 -戦後日本最大のコンペ-」
現在の東京都庁舎が新宿に出来上がったのが1990年で、僕が大学生の時。
自分がデザインを勉強していたときでもあり、そのデザインには衝撃を受けた。
ノートルダムを思わせるシンボリックなツインタワー、そしてファサードのデザインは未来的でもありながらなんだか伝統も感じさせられた。
その庁舎を作ったのが丹下健三。
そして彼とコンペを争ったのが弟子の磯崎新。
建築家には疎い僕でもこの二人の名前くらいは知っている。
この本は、その戦後史上最大のコンペを決して現実には見ることができない磯崎新の都庁のデザインができるまでを通して描いている。
日頃仕事としてデザインをしていて思うのは、デザインというものはものの考え方が現れたものということ。
すなわちコンセプトである。
自分の感覚で言うと、コンセプトができたら、仕事は先行きが見えたような気がする。
コンセプトができるのはすぐの時もあるし、全然でてこないときもある。
でてこない時はまさに五里霧中状態。
コンセプトの出し方、方法論というのはたぶん各人各様だと思うのだけれど、この本を読むと磯崎新という建築家の考え方というのがわかる。
その考え方というのは、その人の歴史、どのように育ち、どのようなものを見、どのような人に影響をされたかというのが、色濃く反映される。
そのあたりをこの本の著者はとても丁寧に描いている。
コンセプトが出来上がると先行きが見えたような気がすると書いたが、それはただ方向性が見えただけとも言える。
その考え方にふさわしい具体的なデザインができるかどうかは別問題。
それがなかなか悩ましいところではある。
ただ具体的な表現に関しても、自分が見聞きした経験というのが反映される。
コンセプトがあって、無意識のうちに自分の経験の中からふさわしいモチーフなどを引っ張りだしてくるという感じだろうか。
分野はちょっと違うが、偉大な建築家である磯崎新のものの作り方というのが垣間見え、非常に勉強になった本である。
建築に関しては門外漢であるけれども、とてもわかりやすい内容で、ボリュームの割にすらすらと読むことができた。
今の東京都庁舎も好きなのだけれど、磯崎新の庁舎も見たかった気がする。
「磯崎新の『都庁』 -戦後日本最大のコンペ-」平松剛著 文藝春秋 ソフトカバー ISBN978-4-16-370290-2
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