「ニュー・シネマ・パラダイス」 人生を経るに従い感じ方が変わる作品
大学生になってから本格的に映画に夢中になりました。
学生時代は東京には住んでなかったため全国ロードショー公開の大作しか見ていませんでしたが、いろいろな映画を幅広く観るようになったのもこの頃。
おりしも単館ものと呼ばれるジャンルも定着してきた時でした。
「ニュー・シネマ・パラダイス」はそんなときに観た映画でした。
僕がはじめて観たのは先に書いたように大学生のとき、120分程度の尺の劇場公開版と現在は呼ばれているバージョン。
次に社会人になってから、150分のオリジナル版が再びシネスイッチで上映され、観に行きました。
そして今回ディレクターズカット版(3時間弱)を観賞しました。
本作は初めて観た時から好きで、観る度ごとに心を動かされます。
でも毎回その心を揺さぶられるポイントが異なります。
特にラストのキスシーンを繋いだフィルムをトトが観る場面は、その意味合いがバージョンによってかなり変わってくると思います。
初めて観たバージョン(劇場公開版)は、僕の記憶ではトトの子供時代がほとんどで最後の占めていたと思います。
ラストシーンで流れるキスシーンのフィフムはトトが幼い頃、アルフレードににねだったもの。
そのときアルフレードはフィルムをトトにあげるけれど、それは自分が大事に保管してやると言います。
アルフレードの死後、渡されたそのフィルムはずっとアルフレードが大事にしまっておいたものでした。
この作品ではラストのシーンの意味合いは、ずっと故郷を離れていたトトが、父親のようであったアルフレードの愛情を感じるというものだったと思います。
二度目に観たオリジナル版では劇場公開版で大幅にカットされていた青年期のシーンが増えています。
青年時代のトトは、生涯一の恋の相手エレナと出会います。
彼女と恋に落ちますが、彼女の両親の反対、自身の徴兵により彼女と引き裂かれてしまいます。
徴兵後、故郷に戻ってきたトトは彼女の姿を見つけることはできませんでした。
トトは恋に破れた失意の中、夢を叶えるためのローマへの旅立ちます。
このバージョンではラストシーンの意味が大きく変わり、劇場公開版の意味合いに、初恋の相手と叶えることのできなかった恋をトトが思い返すという要素が加わります。
フィルムに映し出される数々のキスに、トトは初めての、そして一度だけの恋、エレナへの思いを重ね褪せて観たのでしょう。
そしてディレクターズカット版。
こちらではトトは中年期にエレナと再会し、一晩だけ結ばれます。
このバージョンでもさらにラストシーンの意味合いは変化します。
オリジナル版でも明らかになっていますが、エレナとトトが最後の日に出会えなかったのは、アルフレードがエレナの伝言を伝えなかったからでした。
アルフレードはトトの映画にかける想いや才能を信じていました。
彼にはチャンスが必要だと考えていました。
そのためには小さな村を出なくていはいけない。
アルフレードはそのためにはエレナとの恋におぼれてはいけないと思ったのです。
トトがローマに旅立つ日、アルフレードはトトにこう言います。
「ノスタルジーに惑わされるな」
自分の夢をしっかりと持ち、過去ではなく、未来を見よという意味でしょう。
ディレクターズカット版ではトトがエレナと一度だけ結ばれたことにより、かえって二人の関係が過去のものであるという印象が強くなります。
またアルフレードは人生は映画とは違い、過酷なものだというようなことも言います。
彼はトトがどこかでエレナか、仕事かを選ばなければならない局面になることになるということを気づいていたのでしょう。
けれどもトトは若く、それらを選ぶことができないことにもアルフレードは気づいていた。
そこでトトが傷つき、二つともを失わせてしまうわけにはいかないとアルフレードは思ったのでしょう。
彼はトトの夢を叶えるために、嘘をついたのです。
このバージョンにおいては、ラストの往年の映画のキスシーンの場面は、アルフレードの上記のようなトトへの想い、配慮を強く印象づけることになりました。
劇場公開版がトトの子供時代へのノスタルジーが、オリジナル版がトトの青年時代へのノスタルジーが中心だったのに対し、ディレクターズカット版はアルフレードのトトへの愛情みたいなものが強く感じられるものになっていたと思います。
編集によってこんなに印象が変わる作品というのも珍しいのではないでしょうか。
どれがいいとか悪いではなく、どのバージョンでも少し異なる視点での感動があるのは間違いありません。
つらつらと上記のように分析っぽく書いていますが、実は編集などよりも、その作品を観たとき自分がどのような状態であったかというのが、作品への印象が変わるような気もしています。
初めて劇場公開版を観たときは学生の時。
まだ10代で社会の厳しさや、深い恋愛なども知らぬ頃でした。
そういう時にディレクターズカット版を観ても、あまりよくわからなかったかもしれません。
そのときは子供時代へのノスタルジーというのがわかりやすかったのだと思います。
そしてオリジナル版は社会人になってから。
仕事にも恋にも悩み多き頃。
失恋なども何度も経験しているわけで、そのとき観たオリジナル版には恋人を失ったトトの姿に共感をしたりもしました。
そして今。
多少は人生経験も積んできたこのとき、ディレクターズカット版を観ると、アルフレードのトトの人生への配慮というものが強く心に響きます。
憎まれようとも、トトのことを想い、彼が傷つかず成功することを考えている。
そういう愛情に気づくことができる年になったということでしょうか。
「ニュー・シネマ・パラダイス」、人生を経るに従い、感じ方も変わっていく映画です。
次はアルフレードの年くらいになったら、またこの映画を観てみたいと思います。
きっとそのときはまた感じ方が違っているのだろうと思います。
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