本 「陰陽師 付喪神ノ巻」
夢枕獏氏の「陰陽師」シリーズというのは、とても安定感があるように感じます。
売り上げがといった野暮なことではなく、物語が、です。
それは多分に陰陽師安倍晴明とその友である源博雅のペアの安定感に依るところが多いと思います。
「陰陽師」シリーズは基本的に連作短編集ですが、それらの物語の構造はほぼ同じ。
起こる怪異が違うため、飽きるということはないのですが、読んでいて安心感というかリズムがあるように感じます。
リズムは夢枕氏特有の文体によるとは思いますが、安心感は先ほど書いたように安倍晴明と源博雅のペアから感じるものでしょう。
シリーズ二作目「陰陽師 飛天ノ巻」の記事でも触れました博雅のキャラクターに、本作でもぶれがほとんどありません。
陰陽師である安倍晴明は人の闇の部分を観ているし、それが人にとってぬぐい去れないものであることを知っています。
人が見れぬものを見る力を持つ者は、ある種達観したようなシニカルな目線を持ってしまいそうだと思いますが、彼がそうならないのは源博雅という人物の役割が大きいように思います。
彼の人の痛みを自分のものと感じられる、素直なものの感じ方というものが、人の性を知ってしまっている晴明をこちら側に引きとどめているような気がします。
その博雅のものの見方というのが、読む側にもなにか安心感のようなものを与えてくれているように思えますね。
夢枕獏作「陰陽師 飛天ノ巻」の記事はこちら→
「陰陽師 付喪神ノ巻」夢枕獏著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-752805-3
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