« 本 「ネットと戦争 -9・11からのアメリカ文化-」 | トップページ | 「クライマーズ・ハイ」 チェック、ダブルチェック »

2008年6月17日 (火)

「ダイブ!!」 普通っていう枠

清々しい気持ちで観終えられる青春映画でした。

この物語には3人の飛び込みの選手が登場します。
平凡な両親の元に生まれ、ごく普通に暮らしてきた中学生、坂井知季(林遣都さん)。
彼は一流のダイバーが持つ”ダイヤモンドの瞳”と呼ばれる瞬間視という天性の素質を持っています。
知季とは対照的に元オリンピック選手の両親を持ち、ずっと日本の飛び込み競技を担うべく育てられた富士谷要一(池松壮亮さん)。
そして思い切りよいダイビングが心情の津軽出身の野性味溢れる選手、沖津飛沫(溝端淳平さん)。
彼ら3人の成長が飛び込み競技を通じて描かれます。

知季は今時の子供とは思えない、まっすぐに素直な気持ちを持った少年。
でも失恋をすれば落ち込むし、拗ねたりもするほんとに普通の男の子。
要一のように重い使命感を持っているわけではありません。
沖津のように強い反抗心を持っているわけでもありません。
彼の両親は子供に伸び伸びと育ってもらいたいという気持ちからか、最近の親とは違い、ガミガミと言わず多くを子供に背負わせません。
自分らしくしていい、普通でいいよと言ってくれる両親です。
でも知季にとって、そういう両親の気持ちは自分に対して期待をしていないというようにもとれます。
普通であること、それが知季にとって、息苦しいような「枠」に思えてしまうのです。
誰でも自分でしかなせないことをやり、そして周りの人々に認めてもらいたいと思います。
でもそうするためには、背負わなければいけないことや我慢しなければいけないこともでてくる。
そこにある苦しさみたいなものもある。
たぶん知季の両親はそれもわかっていて、あまり子供に縛っていけないと思っていたのだと思います。
けれどもそれは知季にとっては「普通っていう枠」だったのです。
知季は普通の男の子と書きましたが、一つ特別な力を持っています。
それは”ダイヤモンドの瞳”ではありません。
その力は自分をはめ込んでいる枠というのを気づくことができる力だと思います。
人はその枠になかなか気づくことはありません。
それは人が作った枠であったり、自分自身が作ってしまった枠だったりするのですが、それを人は自分でなかなか認識できないものです。
なんとなくそんなものだと納得してしまいがちなのですよね。
要一の背負っている使命感も、沖津の反抗心もそれは、自分を制約している枠なわけです。
でも知季は枠に気づくことができる。
そしてその枠を越えようとすることができる。
要一も沖津も、知季を、互いを見て、自分自身をはめこむ枠に気づきます。
要一は手堅く完璧な演技を超えたチャレンジブルな技に挑み、そしてコーチとしてしか接することができなかった父親と子としてきちんと向かい合うことができるようになる。
沖津はもやもやとした反抗心ではなく、もっと純粋な気持ちで飛び込みという競技を楽しむことができるようになる。
彼ら3人それぞれの枠越えがとても清々しく思えました。

映画の清々しい印象を与えてくれたのは、林遣都さんの存在が大きいですね。
「バッテリー」は未見なので初めてこの映画で観ましたが、非常にフレッシュな印象で。
知季という役柄にぴったりな少年だなと思いました。
沖津役の溝端さんはスクリーンデビューだそうですが、なんとなく、もこみちに見えて仕方がなかったです(それは「ラフ」だって)。

あとダイビングシーンはなかなかの迫力。
飛び込み競技をテーマにしているので、これがしっかりと描かれていないと興ざめですが、非常に美しくかつ迫力がありました。
飛び込み競技は演技自体は一瞬で終わってしまうスポーツですが、その前後の駆け引き、メンタルコントールなど肉体だけではなく、心の強さが求められるものだと初めて知りました。
その競技のヒリヒリするような緊張感みたいなものもとてもよく描かれていたと思います。

時間があったので、とりあえず観てみた映画でしたが、思わず良い拾いものをしたような感じがした映画でした。

原作小説「DIVE!!」の記事はこちら→

にほんブログ村 映画ブログへ

|

« 本 「ネットと戦争 -9・11からのアメリカ文化-」 | トップページ | 「クライマーズ・ハイ」 チェック、ダブルチェック »

コメント

hyoutan2005さん、こんにちは!

何も期待をせずに観に行ったのですが、予想以上に良い出来で嬉しかった作品です。
最近はなんだか閉塞感がある時代ですが、映画の中の彼らのように悩みつつも、その枠を越えようとする姿というのはやはりいいものですね。
ちょうど今、原作の方も読み始めたところです。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年8月 3日 (日) 09時08分

こちらもお返しが遅くなりました。
「鬼太郎」とともにTBのお返しをしましたが、うまく送れていないでしょうか?
この作品は、私も最近の「青春もの」中で一番良く出来た作品だと思います。
何よりはらやんさんのおっしゃるように鑑賞後に爽やかな気持ちになることが出来るのが良いです。
主人公が飛び越えようとする「普通でいることの枠」。
そして主人公以外のふたりの青年もそれぞれが
はめ込まれた「枠」に悩み、皆自分なりの方法でその枠から外に飛び出そうとするわけですが、その姿が実に清々しく描かれていて好感が持てました。

投稿: hyoutan2005 | 2008年8月 2日 (土) 23時00分

ミチさん、こんばんは!

ミチさん、原作読まれているですねー。
ふむふむ、もう少し小説ではそれぞれの「枠」がしっかり描かれているのでしょうか。
この映画観て、原作にも興味がでてきました。
ちょうど本屋さんでは平積みになっているし、買ってみようかな。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年6月22日 (日) 18時32分

こんにちは♪
地元がロケ地ということもあって風景を見るのも楽しい作品でした。
スポーツ青春モノって見た後が爽やかでいいですよね~。
原作はもうちょっとひとりひとりを掘り下げてあったので、脳内補完をしながら鑑賞しました。
キャストはとてもイメージにあっていたし、実際に特訓をした成果が現れていましたね。

投稿: ミチ | 2008年6月22日 (日) 15時42分

HIROMIさん、こんばんは!

夏のプールの水面のように、彼らがキラキラと輝いているように見えました。
とても素直に、ひたむきに打ち込めるというのは、あの年頃だからかもしれませんね。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年6月19日 (木) 19時12分

こんばんわ。
大人もそれぞれ枠と戦ってると思うけど、この映画で、青春がもつ独特の輝きを改めて感じました。若者をめぐる暗いニュースに気が滅入るこのごろですが、まさに清涼剤のような作品だったと思います。

投稿: HIROMI | 2008年6月19日 (木) 19時04分

rin_mmさん、こんにちは!

いまどき清々しく青春を描いている映画って珍しいですよね。
なんかとても新鮮に感じました。
飛び込み競技も、待ち時間とか駆け引きとかいろいろ奥深いところがあるということを知ったので、そのあたりオリンピックのときはしっかり観てみようと思いました。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年6月19日 (木) 08時43分

こんにちは。

>良い拾いものをしたような感じがした映画

そう、そうですよね!!
私も試写会で見て、まさにそう感じました!
北京オリンピックでも、今まで目を向けていなかった
飛び込み競技に大注目しちゃいそうです。

投稿: rin_mm | 2008年6月18日 (水) 00時40分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「ダイブ!!」 普通っていう枠:

» 飛び込みが面白いっ(映画/試写会:DIVE!!) [美味!な日々]
面白いっ、面白いぞ、飛び込み!!イケメン俳優候補生達が出演するアイドル映画だろうなと思って観に行った『DIVE!!』の試写会、ダイビング(飛び込み)競技について知識がなかったこともあり、予想外に楽しめました。... [続きを読む]

受信: 2008年6月18日 (水) 00時35分

» DIVE!! [UkiUkiれいんぼーデイ]
JUGEMテーマ:映画 2008年6月14日 公開 だから・・・アソコが気になるってば! いいよぉ〜なかなか、やる!!! 今月は『花男』よりも気になっていたこちらの作品!!! だってぇ〜  ジュンジュンが出ているからぁ ((〃゛◇゛〃)) ということで、しっかり肉体美を堪能させていただきました♪ 原作は森絵都(もりえと)さんの同名コミック。 高さ10m 時速60km わずか1,8秒にすべてを賭けるダイバーたちの姿を描いた作品。 赤... [続きを読む]

受信: 2008年6月18日 (水) 15時06分

» 「DIVE!!ダイブ」 [アートの片隅で]
「DIVE!!ダイブ」の試写会に行って来ました。 会場の新宿厚生年金会館には、普段よりも学生が多かったような気がします。 森絵都のベストセラーが原作です。 原作は、かなり長いお話なのですが、とても面白く、あっという間に読んでしまいました。 同じくベストセラーの佐藤多佳子著「一瞬の風になれ」と並ぶ青春スポーツ物の代表作です。 そういえば、「一瞬の風になれ」のテレビドラマはひどかったなぁw( ̄▽ ̄;)w あのドラマは駄目な所だらけだったけど、その中でも一番の問題が、陸上短距離の話な...... [続きを読む]

受信: 2008年6月18日 (水) 18時42分

» 『DIVE!! ダイブ』 ~3人の演技力は本物!女子だけの独占では惜しい“異色スポ魂映画” [ketchup 36oz. on the table]
『DIVE!! ダイブ』を、試写会で観てきました。 森絵都原作の、水泳とびこみ競技にかける少年たちを描いた『DIVE!!』。 熊澤尚人監督が、わずか1.8秒の空中演技に賭ける3人の少年と若き女性コーチとのドラマを描いた スポ魂エンターテイメントの完全映画化です。 …って、... [続きを読む]

受信: 2008年6月19日 (木) 04時35分

» 【DIVE!!ダイブ】 [日々のつぶやき]
監督:熊澤尚人 出演:林遣都、池松壮亮、溝端淳平、瀬戸朝香、光石研、蓮沸美沙子 「坂井知希はミズキダイビングクラブに通う中学生。富士谷コーチの息子の要一と違っていたって平凡な選手だったが、ある日赤字続きのMDSを救う為にやってきた麻木コーチの特訓のお陰... [続きを読む]

受信: 2008年6月19日 (木) 14時29分

» DIVE!! [シネマ大好き]
昨夜、試写会で森絵都原作の「DIVE!!」を観た。 ダイビングクラブに通う林知季(林遣都)は平凡な中学生。同じクラブの富士谷要一(池松壮亮)はコーチの息子。クラブが経営難を理由に廃止されるのを阻止しようと、クラブオーナーの孫・麻木(瀬戸朝香)がコーチとし..... [続きを読む]

受信: 2008年6月19日 (木) 18時38分

» 映画 「DIVE!!ダイブ」 [ようこそMr.G]
映画 「DIVE!!ダイブ」 を観ました。 [続きを読む]

受信: 2008年6月20日 (金) 00時33分

» 映画 【DIVE!! ダイブ】 [ミチの雑記帳]
映画館にて「DIVE!! ダイブ」 森絵都のベストセラー小説の映画化。 おはなし:知季(林遣都)は平凡な中学生。元オリンピック選手の両親を持つエリート要一(池松壮亮)の美しい飛び込みに魅せられてダイビングクラブに通っている。ある日アメリカ帰りの新コーチ(瀬戸朝香)がやって来た。 原作「DIVE(ダイブ)!!」では知季、要一、飛沫の三名に等しく視線が注がれていたのに対して、映画では知季にちょっと重心がかかっているようでした。 飛び込みというマイナーな競技はやはり描きづらそうだな〜というのが第... [続きを読む]

受信: 2008年6月22日 (日) 15時39分

» DIVE(ダイブ)!! [ともみの言いたい放題♪]
またまた、レディースデーを利用しました{%吹き出し♪hdeco%} [続きを読む]

受信: 2008年6月23日 (月) 16時58分

» DIVE! !☆独り言 [黒猫のうたた寝]
冒頭の幼い少年が目にした印象的な光景遠くに見えたドラゴンのような巨大な建造物の頂上に立つ人影に目を見張る・・・そして初めて見たダイビングに魅せられる。『DIVE! !』観てきました。競技はとてもシンプル・・・飛び込み台からプールへ飛び込む技を競う競技。5m~... [続きを読む]

受信: 2008年6月25日 (水) 00時29分

» ダイブ!! [ネタバレ映画館]
瞳はダイアモンドといっても松田聖子ではない・・・ [続きを読む]

受信: 2008年6月25日 (水) 01時35分

» 【2008-146】DIVE!!ダイブ [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
人気ブログランキングの順位は? 高さ10mわずか1.8秒 一瞬の空中演技に魅せられた 少年たちの暑い夏が はじまる [続きを読む]

受信: 2008年6月29日 (日) 17時47分

» 『DIVE!! ダイブ!!』 @角川シネマ新宿 [映画な日々。読書な日々。]
エリート選手の富士谷要一に憧れて飛び込みを始めた坂井知季は要一と同じミズキダイビングクラブに通っている。ところが、クラブは赤字続きで存続の危機に。再建を任された新コーチ・麻木夏陽子の使命はクラブからオリンピック代表選手を出すこと。手始めに津軽の野生児と異... [続きを読む]

受信: 2008年7月 7日 (月) 00時47分

» 映画:ダイブ!! 試写会 [駒吉の日記]
ダイブ!! 試写会(東京厚生年金会館) 「今ならきっとこえられる」 原作は予習済みで系列としては「バッテリー」。奇しくも主演は同じく林遣都君。今美少年主人公といったら彼になるのか~某事務所のひょろいコ達がキャスティングされなかったのに安心。 メタボ、どこの... [続きを読む]

受信: 2008年7月11日 (金) 15時06分

» 「ダイブ!!」 [みんなシネマいいのに!]
 直木賞作家・森絵都のベストセラー小説の映画化だが、自分は、今や連載している漫画 [続きを読む]

受信: 2008年7月13日 (日) 09時22分

» 「ダイブ」あの夏の大きな水飛沫 [soramove]
「ダイブ」★★★ 林遣都、池松壮亮、溝端淳平主演 熊澤尚人監督、2008年、115分 子供のころ夕日を受けて 高い高い飛び込み台から 誰かが飛び込むシルエットを見て その田か飛び込みに憧れて始めた主人公は、 見たものを瞬時に映像として 捕らえることが出...... [続きを読む]

受信: 2008年7月13日 (日) 22時15分

» 水面の大空へダイビング~『DIVE!!ダイブ』 [ひょうたんからこまッ・Part2]
『DIVE!!ダイブ』 (2008年・日本/115分) 公式サイト 5月25日(日)8:30開映 シネプレックス平塚・試写会にて鑑賞 上映前に林遣都君・池松壮亮君・溝端淳平君、 この主役の3人からのメッセージビデオが流れました。 弱小ダイビングクラブの... [続きを読む]

受信: 2008年8月 2日 (土) 22時45分

» DIVE!! ダイブ [にわうたぶろぐ]
 あまり見ることのない「飛び込み」を題材にした青春作品。  ルールとかよく分からないんですが、ただ一つ確実に言えることがある。  私が高所恐怖症ってことだ。 [続きを読む]

受信: 2010年4月20日 (火) 23時48分

» ダイブ!! [象のロケット]
赤字続きのダイビングクラブ存続の条件はオリンピック選手を出すこと。 アメリカ帰りの美人コーチがやってきた。 エリート選手・要一、野性児のようなダイバー・飛沫と共に特訓を受ける知季。 彼が選ばれたのは“ダイヤモンドの瞳“のため。 それはいったいどんな能力なのか? 一瞬の快感に魅了された少年たちの熱い夏がいま始まる…。 イケメン揃いのスポーツ青春ドラマ。... [続きを読む]

受信: 2010年5月27日 (木) 01時42分

» 「DIVE!!ダイブ」 [てんびんthe LIFE]
5月21日「DIVE!!ダイブ」試写会 東京厚生年金会館で鑑賞 直木賞作家森絵都のベストセラー小説を映画化した青春映画。 オリンピックの水泳種目でも飛び込みって結構好きな私です。 私はもう一生プールに入ることはないと思うので100%観客の目です。 (ヤワな肌質なので塩素に負けてかぶれます) 水泳できる人羨ましいと思っていたけど、今はもう泳ぐ気がしないのであまりうらやましいとは思わなくなりました。 でも、飛び込みは別物だと思うのです。 シンクロって競技もすごいけど飛び込みはそれ以上だ... [続きを読む]

受信: 2010年5月30日 (日) 09時32分

« 本 「ネットと戦争 -9・11からのアメリカ文化-」 | トップページ | 「クライマーズ・ハイ」 チェック、ダブルチェック »