本 「ジーン・ワルツ」
「チーム・バチスタの栄光」の海堂尊氏の新作。
海堂氏の小説は産婦人科医療をテーマにしているため専門用語が多いのにも関わらず、読みやすいのがいい。
僕は男性だし、子供もいないので、子供を産むということに関して、一般的(それも男性としての)な知識しかありません。
この物語には五人の妊婦が登場します。
望んでやっと子供を宿した人、望まなくて妊娠した人。
特に青井ユミと甘利みね子という登場人物のエピソードに心を揺さぶられました。
ユミは誰が父親かわからずに10代で望まずに妊娠してしまった女性。
彼女は始めは子供を堕ろそうとしますが、産婦人科医曾根崎理恵に説得され、産む決心をします。
けれどもその子が重度の障害を持っていることがわかってしまいます。
曾根崎医師は彼女の境遇を考え堕胎を薦めますが、彼女は産むと言います。
またみね子はやっと授かった子供が、やはり重篤な障害を持つと知らされます。
その子は産まれたらすぐに死んでしまうことがわかっている。
けれども彼女はそれでも産みたいと決心をします。
そして曾根崎に子供の性別は何かと聞く。
産まれてくる子供に名前をつけたいからだという。
「家族に名前をつけるのって、当たり前だと思いませんか」
ユミにしても、みね子にしても、産むというその決心をしたときの彼女たちはとても強く見え、そして神々しくも見える。
この物語の登場人物、妙高助産師が語るように「子供は世界を一変させる」のでしょう。
それだけ子供というもの、生命というものは人にとってかけがいのないものなのでしょう。
この作品の中で、作者が登場人物に語らせているように、そしてまた報道でも伝えられているように産婦人科医療は現在崩壊寸前となっています。
子供を産むということは人間がずっと繰り返してきた行為であるために、当たり前すぎることに思えてしまいます。
けれどもそこには危険性は少なからずあり、それを支えてきた医師たちや家族たちの力があったわけです。
その仕組みをなんとか支えていかないと、これから問題になる少子化は解決しないのではないかと思います。
「ジーン・ワルツ」はエンターテイメントとしてたいへん面白く読めますが、そのような産婦人科医療、少子化という社会的な問題への課題提起となっている作品だと思います。
本作の裏編となる海堂尊作品「マドンナ・ヴェルデ」の記事はこちら→
映画化作品「ジーン・ワルツ」の記事はこちら→
「ジーン・ワルツ」海堂尊著 新潮社 ハードカバー ISBN978-4-10-306571-5
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» 【本】ジーン・ワルツ [★YUKAの気ままな有閑日記★]
『ジーン・ワルツ』 海堂 尊 新潮社【comment】こちらは、海堂氏の『医学のたまご』の関連作品で、それより十数年前の物語である。そこで主役だった曽根崎薫―中学生なのにひょんなことから東城大学医学部で勉強することになった男の子―は、世界的なゲーム理論学者である曽根崎伸一郎の息子だが、不自然な父子家庭形態で暮らしていた。その理由というか薫のルーツともいえる物語を、薫の母親である曽根崎理恵の視点から描き出しているのだ。(*だが、『医学のたまご』を未読の方でも『... [続きを読む]
受信: 2010年6月27日 (日) 19時35分
» 『ジーン・ワルツ』 [みゆみゆの徒然日記]
海堂尊/著
『ジェネラル・ルージュの伝説』に引き続きこちらも読了。この作品の主人公は産婦人科医・曽根崎理恵。人工授精のエキスパートである彼女の元に5人の妊婦が訪れるが、代理母出産に手を染めているという噂もあり・・・・というストーリー。
海堂作品は、どの作品においても、現役医師である作者が、小説という手法を使っていろいろなことを訴えていますが、これは今までの作品よりも社会に対する訴え(言葉を悪く言うと毒を吐いているというか)というものを感じました。これは読む人が女性か男性か、出産経験があるかな... [続きを読む]
受信: 2010年6月27日 (日) 20時52分
» 『ジーン・ワルツ』 海堂尊 [【徒然なるままに・・・】]
産婦人科医が術中死により逮捕され、産婦人科医療に大きな衝撃を与えるという事件が発生して半年後。
「冷徹な魔女(クール・ウィッチ)」と呼ばれる美貌の産婦人科医・曾根崎理恵は、帝華大学の助教として発生学の講師を務める傍ら、産婦人科病院「マリアクリニック」で非常勤の医師としても勤務していた。
かつて帝華大学は「マリアクリニック」をバックアップしていたが、一連の事件の後に手を引き、今は理恵がサポートするのみ。院長の三枝茉莉亜は癌の為に余命幾ばくもなく、また逮捕された医師は彼女の息子だったことから、既に「... [続きを読む]
受信: 2010年6月27日 (日) 21時01分
» ジーン・ワルツ (海堂 尊) [花ごよみ]
クール・ウィッチ(冷徹な魔女)と呼ばれる
産婦人科医・曾根崎理恵が主人公の物語。
理恵は顕微鏡下で行う、
人工授精分野での専門家。
理恵が週1で勤務する、
マリアクリニックという名の産婦人科医院。
その彼女のところに診察にくる
それぞれ事情をかかえた、
五人の妊婦が絡みます。
先輩である清川医師、
彼は理恵が代理母出産に
関わったとという噂を耳にし、
真実を知るため動く。
今回の作品、
崖っぷちの産婦人科の、
医療行政に対する、
問題を提起しながら
曾根崎理恵の信念を貫くストーリー。
理... [続きを読む]
受信: 2010年6月27日 (日) 21時31分
» ジーン・ワルツ [Yuhiの読書日記+α]
海堂尊著「ジーン・ワルツ」をようやく読了しましたー。「ひかりの剣」に出ていた清川さんが準主役で出てると聞いてから、ずっと読みたかったのですが、図書館で予約してもなかなか来なくて・・・。
本作は「チーム・バチスタ」シリーズの番外編に位置づけられると思います。海堂さんの作品は、他の作品とのリンクがたくさんあるので、読む冊数が増える程に、楽しみが増していく感じがして、いつも楽しみなんですよね。
で、今回は、今社会で問題となっている産婦人科の医師不足、不妊治療、代理母などが主要なテーマとなっていて、帝華... [続きを読む]
受信: 2010年6月28日 (月) 00時40分
» 「ジーン・ワルツ」海堂尊 [ナナメモ]
ジーン・ワルツ
海堂 尊
JUGEMテーマ:読書
桜宮市・東城大学医学部を卒業、東京・帝華大学に入局した32歳の美貌の産婦人科医、曾根崎理恵―人呼んで冷徹な魔女(クール・ウィッチ)。顕微鏡下人工授精のエキスパートである彼女のもとに、事情を抱えた五人の妊婦がおとずれる。一方、先輩の清川医師は理恵が代理母出産に手を染めたとの噂を聞きつけ、真相を追うが…。
近所の産婦人科がレディースクリニックになってしまったり、里帰り出産をしたいのに実家で受け入れてくれる病院がないって話を聞いたり、産... [続きを読む]
受信: 2010年6月28日 (月) 07時58分
» 海堂尊 『ジーン・ワルツ』 [映画な日々。読書な日々。]
ジーン・ワルツ/海堂 尊
¥1,575
Amazon.co.jp
産婦人科医・理恵――人呼んでクール・ウィッチ。医者がヒトの生命を操ることは許されているのか? 現役医師作家が挑む、現代日本最大の医療問題。『チーム・バチスタの栄光』を超える強烈なキャラクターとスリリングな展... [続きを読む]
受信: 2010年7月 7日 (水) 12時36分
» ジーン・ワルツ / 海堂尊 [ねこやま]
抜粋
桜宮市・東城大学医学部を卒業、
東京・帝華大学に入局した32歳の美貌の産婦人科医、
曾根崎理恵―人呼んで冷徹な魔女(クール・ウィッチ)。
顕微鏡下人工授精のエキスパートである彼女のもとに、
事情を抱えた五人の妊婦がおとずれる。
一方、先輩の清川医師は...... [続きを読む]
受信: 2011年5月 3日 (火) 18時21分
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