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2008年5月 6日 (火)

本 「ジーン・ワルツ」

「チーム・バチスタの栄光」の海堂尊氏の新作。
海堂氏の小説は産婦人科医療をテーマにしているため専門用語が多いのにも関わらず、読みやすいのがいい。

僕は男性だし、子供もいないので、子供を産むということに関して、一般的(それも男性としての)な知識しかありません。
この物語には五人の妊婦が登場します。
望んでやっと子供を宿した人、望まなくて妊娠した人。
特に青井ユミと甘利みね子という登場人物のエピソードに心を揺さぶられました。
ユミは誰が父親かわからずに10代で望まずに妊娠してしまった女性。
彼女は始めは子供を堕ろそうとしますが、産婦人科医曾根崎理恵に説得され、産む決心をします。
けれどもその子が重度の障害を持っていることがわかってしまいます。
曾根崎医師は彼女の境遇を考え堕胎を薦めますが、彼女は産むと言います。
またみね子はやっと授かった子供が、やはり重篤な障害を持つと知らされます。
その子は産まれたらすぐに死んでしまうことがわかっている。
けれども彼女はそれでも産みたいと決心をします。
そして曾根崎に子供の性別は何かと聞く。
産まれてくる子供に名前をつけたいからだという。
「家族に名前をつけるのって、当たり前だと思いませんか」
ユミにしても、みね子にしても、産むというその決心をしたときの彼女たちはとても強く見え、そして神々しくも見える。
この物語の登場人物、妙高助産師が語るように「子供は世界を一変させる」のでしょう。
それだけ子供というもの、生命というものは人にとってかけがいのないものなのでしょう。

この作品の中で、作者が登場人物に語らせているように、そしてまた報道でも伝えられているように産婦人科医療は現在崩壊寸前となっています。
子供を産むということは人間がずっと繰り返してきた行為であるために、当たり前すぎることに思えてしまいます。
けれどもそこには危険性は少なからずあり、それを支えてきた医師たちや家族たちの力があったわけです。
その仕組みをなんとか支えていかないと、これから問題になる少子化は解決しないのではないかと思います。
「ジーン・ワルツ」はエンターテイメントとしてたいへん面白く読めますが、そのような産婦人科医療、少子化という社会的な問題への課題提起となっている作品だと思います。

本作の裏編となる海堂尊作品「マドンナ・ヴェルデ」の記事はこちら→
映画化作品「ジーン・ワルツ」の記事はこちら→

「ジーン・ワルツ」海堂尊著 新潮社 ハードカバー ISBN978-4-10-306571-5

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