本 「K・Nの悲劇」
先週読んだ「ジーン・ワルツ」も妊娠・中絶を題材にしたミステリーでしたが、本作そのあたりを真正面に捉えている作品。
作者の高野和明さんは好きな作家の一人で、映画化された「13階段」等も書いています。
もともとは脚本家ということで、作品全体の構成が上手な方です。
二転三転のストーリー、そしてタイムリミットサスペンスを上手に取り入れているので、後半になればなるほど読むのがやめられなくなります。
高野氏の作品は、社会的なテーマをとりあげているのですが(死刑:「13階段」、ドナー:「クレイヴディッカー」、自殺:「幽霊人命救助隊」、中絶・精神疾患:本作)、それらを作品ごとにさまざまなテイストで描いてるのが器用な感じがします。
本作等はちょっとJホラーのような怖さもあるのですが(ただのホラーにならないところがまた見事)、「幽霊人命救助隊」などはちょっとユーモアがあったり。
それほど多作な方ではないですが、作品発表が待ち遠しい作家さんです。
さきにもあげましたが、この作家は作品にタイムリミットの要素を持ち込むのがとても上手。
本作は何をリミットにしているかというと、作品の中心となる妊婦夏樹果波が中絶できるまでの期限、そして出産するまでの期限。
妊娠をし、そして経済的理由により中絶を決心した時期に、彼女には別の人格が憑依してしまう(ように見える)。
憑依した人格は、お腹の子を頑に守ろうとする。
けれどもそれによって母子ともに危険な状態に陥ってしまう。
彼女は本当に死霊の憑依なのか、それとも妊娠を内心では拒絶する果波が作り出した憑依人格なのか・・・。
この解明を軸に、中絶問題、また精神医療についてなどの社会的なテーマに触れていきます。
このあたりのエンターテイメントと社会性の匙加減がこの方はとても上手ですね。
怖いのが得意な方はちょっと苦手かもしれないですが、ただのホラーとは違いますので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
高野和明著「13階段」の記事はこちら→
妊娠・中絶問題をテーマにした作品「ジーン・ワルツ」の記事はこちら→
「K・Nの悲劇」高野和明著 講談社 文庫 ISBN978-4-06-275323-4
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