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2008年4月26日 (土)

「犯人に告ぐ」 信念の人

ずっと仕事が忙しくて、それがGW前にやや落ち着きそうになって気が緩んだのか、思いっきり風邪をひいてしまいました。
今日から見たい映画がいくつか公開されたのですが、本日は泣く泣く自宅でDVDで映画の鑑賞です。

本作、ミステリーに分類されるのでしょうが、派手なトリックや謎解きはありません。
予告を観たときは、「劇場型捜査」というコピーがあったということもあり、捜査本部の担当がテレビに出演しながら公開捜査という派手なパフォーマンスで犯人を追いつめていくという印象を持ったのですが、どちらかというと地道な警察の捜査で犯人が追いつめられていきます。
主人公と犯人の隠された関係などというようなミステリーはいっさいなし。
極めて現実的な捜査をこの映画は描いています。
証拠を一つ一つ固めていって積み上げていく、地味な捜査というと、映画としてはつまらなそうな感じがするのですが、そんなことはありません。

多分現実の事件もこういった地道な捜査(いわゆる足を使う捜査)の積み上げで解決していくものなのでしょう。
一通一通の手紙を丁寧に分析し、一軒一軒を回っていくローラー作戦、これはよほどの根気と使命感がないとできないもののように感じます。
そこに迷いなどがあったら、先が見えない地道な捜査など続けていくことはできないでしょう。
劇中で描かれている事件の指揮をする主人公巻島警視(豊川悦司さん)は驚くほどにブレない。
彼の中には確固たる「正義」がある。
その「正義」にはブレがない。
周りの登場人物、県警本部長曾根、総務課長植草、テレビキャスター杉村が、自己の出世や保身のために状況に合わせて、さまざまな策を弄するのに比べて、巻島の揺るぎなさが際立ちます。
6年前の誘拐事件の捜査の失敗の原因は、彼は自分の中に揺るぎない「正義」がなかったのだと感じているように思えます。
あのときメンツや自己の手柄への気持ちを捨て、警視庁の手を借りていれば、子供を死なすことはなかったかもしれない。
そのときの後悔は激しく彼を苛んだのでしょう。
それを乗り越え、巻島は自分の中にブレない「正義」を築いたように思います。
彼が常に落ち着き、淡々と捜査を続けていく様は一見地味かもしれませんが、そこには誰にも侵しがたい信念があるように見える。
劇中で犯人が声明で「理想国家のために」等という言葉を使いますが、巻島はそれを一蹴します。
犯人は愚かであると。
その言葉には毅然さがあり、迷いはなかった。
犯人は彼の態度にこそ、追いつめられていったと言っていいでしょう。
犯人には巻島ほどの信念も主義もなかった。
鬱屈した思いがたまたま犯罪の方向へと吹き出したに過ぎない。
そのような半端な気持ちを持った人間が、「信念の人」にかなうわけがない。
犯人だけでなく、本部長や捜査課長も自己のために状況に対応していこうとしていますが、結果としてはそのフラフラした思いが自分自身を知らず知らずのうちに苦境へと導いていってしまいます。
捜査において犯人に「顔見せ」するということは自らを危険にさらすことであるはずであり、普通はそれを躊躇するはずですが、彼はそれをためらわなかった。
それが犯人逮捕に必要であれば、彼は迷わない。
彼の中にはブレない「正義」があるから。
それがカメラを注視し「犯人に告ぐ」という堂々とした言葉に現れているように思えました。

原作小説「犯人に告ぐ」の記事はこちら→

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