「奈緒子」 ひたむきな力
走るのがニガテだったりするので、陸上競技を自分でしたいと思ったことはないのですけれど、やはり年始の駅伝は観てしまいます。
球技のように早い展開があるわけではなく、相手を倒したりするようなスポーツでもない。
テレビの画面に映っているのはただ走っている様子だけなのに、なぜか観てしまう。
それはやはり、誰かがあきらめると襷がつながらない、という単純ながらも厳しいルールが故に、毎年数々のドラマが生み出されるからだと思います。
ある意味、自分が辛くて、自分があきらめることは楽なことだといえます。
自分の気持ちの整理だけできればいいのだから。
けれども駅伝においては、自分のあきらめは自分だけにとどまらない。
それを自覚して選手たちは走っているというのが観ている僕らにも伝わってくるから、選手たちの姿に心を動かされるのでしょう。
この映画で主人公奈緒子が、西浦に誘われ波切島高校陸上部の合宿に参加しようとしたとき、彼女の父親はこう言いました。
「どうしようもないことはどうしようもない」
自分のために命を落とした雄介の父親、そして雄介に、ずっと罪の意識を感じ続けている奈緒子のことを思いやり、「そこまですることはない、忘れなさい」という意味で、そう言ったのだと思います。
けれどもこれは「あきらめなさい」と言っているようにも聞こえます。
奈緒子が背負っているもの、苦しみを彼女が自身で乗り越えられないと、(子供ゆえ)父親は思っているのではないか。
天賦の才能を持つ雄介が、チームメイトの吉崎に配慮しペースダウンした走りをしたとき、監督の西浦が激しく怒ります。
雄介の行為はやさしさではない、吉崎の力を低くみている、吉崎は伸びないと思っているのだと。
奈緒子の父親も、奈緒子を大事に思うばかり、彼女の苦しみを越えようとする力を小さく見ていたのかもしれません。
彼女は自分の苦しみを自分で乗り越えようとした。
あきらめず、自分の力を伸ばそうとするひたむきな力。
その力を自分自身の中にも認め、そして仲間たちの中にも認める。
走るのは結局は一人。
けれどもひとり一人のひたむきな力は、襷によってつながれていく。
互いのひたむきな力を信じること、それがいっそうの自分自身の力になっていくのですよね。
チームメイトの走り、奈緒子の伴走、それから伝わる彼らのひたむきな想いが、最後の走者の雄介にラストスパートの力を与えてくれたのですよね。
奈緒子が給水所でペットボトルを渡そうとしたけれども、雄介が受け取らなかったシーンは屈指の名シーンだと思います。
けれどもその対になる、最後のレースで奈緒子が雄介に並走するシーンがあっさりだったのが惜しかったです。
給水所のシーンくらいにドラマチックにしても良かったんじゃないかなあ。
ゴールをクライマックスにしたいという意図はわかりますが、奈緒子と雄介の関係性においてはあの場面がクライマックスなような気がしました。
| 固定リンク
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 「奈緒子」 ひたむきな力:
» 【奈緒子】 [日々のつぶやき]
監督:古厩智之
出演:上野樹里、三浦春馬、笑福亭鶴瓶
「長崎県波切島に喘息の療養に家族で来ていた奈緒子は、ボートから海に落ち助けてくれた雄介の父親は亡くなってしまった。天才ランナーとして有名な雄介と、陸上大会で受付をしていた奈緒子は再会。お互いに心... [続きを読む]
受信: 2008年3月10日 (月) 15時50分
» 厳しい教えの後に残るモノ。『奈緒子』 [水曜日のシネマ日記]
一人の女子高生の目線を通して、高校駅伝代表を目指して猛練習に励む、ひと夏の様子を描いた作品です。 [続きを読む]
受信: 2008年3月10日 (月) 22時02分
» 奈緒子 [そーれりぽーと]
上野樹里の舞台挨拶目当てで『奈緒子』を観てきました。
(生の“のだめ”が目当てw)
★★★★
映画の中身に全く興味が無かったせいか、上野樹里以外に誰が出てるのか、監督の名前ずら知らずに観たせいか、かなり前のめりでハマって観てしまった。
駅伝の映画って、有りそうでなかなか無いですよね。
舞台挨拶で古厩智之監督も言ってましたが、走る場面が凄くイイ。
本当に走ってる(撮影で走らされてるわけだけど)感じが、表情がイイ。
テレビで駅伝が放送されていても、全く見ない俺だけど、人間ドラマとしてコテコテのスポ... [続きを読む]
受信: 2008年3月11日 (火) 00時22分
» 爽やか?(映画/試写会:奈緒子) [美味!な日々]
オットの愛読マンガ、『奈緒子』が映画化されるというので、試写会に応募しまくり、やっとこさ一枚入手。てなわけで行ってまいりました、試写会へ(オットは結局仕事で行けず。涙)。 [続きを読む]
受信: 2008年3月11日 (火) 00時50分
» 奈緒子 観てきました。 [よしなしごと]
観るつもりではなかったのだけど、映画館についた時間がぴったりだったので、奈緒子を観てきました。 [続きを読む]
受信: 2008年3月13日 (木) 01時37分
» ◆映画の1シーンの『料理』・・・思わず「食べたい!」と思う作品は? [映画情報なら「シネトレ」…最新映画&DVD情報+試写会ご招待!]
『シネトレ』公認映画ブロガーに、本当にたくさんの方にご応募いただいたきました。
厳正な審査の結果、約200名の方を認定させていただきました。
たくさんのご応募ありがとうございました!
映画は「人生の教科書」。故淀川長治氏のことばです。
シネトレ公認映画ブロ... [続きを読む]
受信: 2008年3月13日 (木) 12時04分
» 映画「奈緒子」 [FREE TIME]
映画「奈緒子」を鑑賞して来ました。 [続きを読む]
受信: 2008年3月13日 (木) 23時02分
» 奈緒子/上野樹里、三浦春馬 [カノンな日々]
劇場予告編で鶴瓶さんの陸上部顧問というのだけは腑に落ちなかったけど、樹里ちゃんと春馬くんの熱い青春ぶりは魅力的でちょっと期待させるものがありました。私も青春スーツ(byハチクロ)を準備して鑑賞に臨みました。監督は私のお気に入りムービー「ロボコン」や「さよなら....... [続きを読む]
受信: 2008年3月13日 (木) 23時26分
» 「奈緒子」 [てんびんthe LIFE]
「奈緒子」プレミア試写会 一ツ橋ホールで鑑賞
登壇者は、主演の(?)上野樹里、三浦春馬、古厩智之監督、原作の先生方そして、映画の中の陸上部の面々、さらに今年の箱根駅伝で優勝した駒沢大のメンバー。
やけに、人数が多いけど、素人ばかりといった感じでインタビューの答えも下手だし、宣伝効果はあったのでしょうか?
答えというか、本当に名前言っただけなんですよね。
人数多ければいいって物でもない気がします。
もうひとつ、舞台挨拶の仕切り慣れしていないと思われる文化放送の女子アナ。
はっきりいって... [続きを読む]
受信: 2008年3月15日 (土) 09時12分
» 今も走り続けている [CINECHANの映画感想]
54「奈緒子」(日本)
長崎県波切島。喘息の療養のためこの島を訪れていた12歳の少女・篠宮奈緒子は、走ることが大好きな地元の少年・壱岐雄介と出会う。ある日、両親と船釣りに出た奈緒子は誤って海に落ちてしまい、彼女を助けた雄介の父親が命を落としてしまう。以来、奈緒子は罪の意識に苦しみ続ける。
6年後、東京に戻っていた奈緒子は、〝日本海の疾風〟と呼ばれる天才ランナーとなった雄介と偶然の再会を果たし、自分が6年前の少女であることを告白する。雄介は奈緒子へのわだかまりを捨てきれず冷たく接して...... [続きを読む]
受信: 2008年3月15日 (土) 11時44分
» 『奈緒子』@アミューズCQN [たーくん'sシネマカフェ]
日活3作品共通鑑賞券で鑑賞。(「奈緒子」「うた魂♪」「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」)この鑑賞券がチケット屋さんでだいぶ安くなっています。残っていて作品に興味がありましたらぜひどうぞ今回は原作が漫画の「奈緒子」鑑賞。(C)2008「奈緒子」製作...... [続きを読む]
受信: 2008年3月15日 (土) 15時06分
» 奈緒子 [ネタバレ映画館]
好きよ!キャプテン [続きを読む]
受信: 2008年3月17日 (月) 23時44分
» 『奈緒子』 [ラムの大通り]
----うわあ、懐かしいタイトル。
確か連載コミックだったよね。
「うん。ぼくもあの頃は毎週「ビッグスピリッツ」読んでいたから…。
この漫画も全部読破したつもりでいたけど、
どうやら原作では『奈緒子 新たなる疾風』とタイトルを変更して、
さらに話は続いていたようだね」
----そうか。フォーンも
壱岐雄介が金メダルを取ったところまでしか知らないニャあ。
でも、この物語ってタイトルロールの奈緒子よりも
確か、雄介のお話になっていなかった?
「そうなんだよね。
彼が子供の頃、
溺れかかった篠宮奈緒子を助... [続きを読む]
受信: 2008年3月20日 (木) 22時40分
» 「奈緒子」 猿岩見たかったなぁ〜 [『パパ、だ〜いスキ』と言われたパパの映画日記]
漫画は、めっっちゃ面白いです!
もうあと1巻読んでから寝よ。後もう1巻と、徹夜になりかけながら読みふけりました。
この映画の製作に関わった人は、本当に原作漫画が好きで作ったんやろか〜?と問いたい。
いや、正直なとこ、好きやないやろ?
ほんまに読んだか??
タイトルロゴが原作漫画と全く同じやったし、原作にあるような奈緒子モノローグがあったから、トラウマを作るためだけに死んでしまったように見えた父ちゃんのシーンに、こみ上げた怒りはぐっとこらえましたが、その後いつまでたっても漫画の面白いところを全く生か... [続きを読む]
受信: 2008年3月23日 (日) 19時31分
» No.146 奈緒子 [気ままな映画生活]
毎年、元旦に行われる大学箱根駅伝をテレビで見ている。
どんなに注目されたスター選手だろうとレース当日、
体調を壊しリタイヤする、たった1秒の差で本戦に
出場できないなど・・・タスキをつなげるため
様々なドラマが展開され、ブラウン管ごしに
選手たちの想いが伝...... [続きを読む]
受信: 2008年11月 3日 (月) 23時22分
» 「奈緒子」 [のんびり。]
〔2007年/日本〕 小学生の奈緒子(藤本七海)は、喘息の療養の為に、 長崎にある波切島に船で向かう途中、 帽子が風に飛ばされて、自分も海に落ちてしまう。 船に乗っていた男性が海に飛び込み、 奈緒子を助けてくれるのだが、 男性は死亡してしまう。 その男性の息子で、小学生の雄介(境大輝)は、 父を殺した奈緒子を許せずにいた。 それから数年後、 高校生になった奈緒子(上野樹里)と雄介(三浦春馬)は、 都内の陸上競技会場で再会。 雄介は波切島高校の陸上部のエースで、 将来を有望視され... [続きを読む]
受信: 2011年5月 6日 (金) 18時41分
コメント
シムウナさん、こんばんは!
ベタと言えばベタなんですが、やはりこういう青春スポーツものというのは素直にジーンときてしまいますよね。
上野樹里さんは陸上をやっていたようですね。
走るシーンはさまになっていたような気がします。
投稿: はらやん(管理人) | 2008年11月 7日 (金) 20時28分
TB有難うございました。
駅伝はよくテレビで見ているので、タスキをつなぐ
熱いドラマを実際の駅伝とシンクロして鑑賞できました。ゴールに仲間たちが待っている・・・
抱擁シーンはじ~んとなってしまいます。
上野樹里が一番多く走っていたような気がします(笑)
すみません・・・先ほど間違えてコメント
しました。「僕の彼女はサイボーグ」の
コメントを書いてしまいました。
お手数ですが削除をお願いします!!
投稿: シムウナ | 2008年11月 4日 (火) 22時40分
えいさん、こんばんは!
給水シーンは、主演二人の表情が良かったですね。
三浦春真さんは、「ネガチェン」の「金髪」で斜に構えている印象しかなかったのですが、この映画ではとてもひたむきな感じで雰囲気がとても違うことに驚きました。
投稿: はらやん(管理人) | 2008年3月21日 (金) 22時40分
こんにちは。
この映画、あまり好きな方ではないのですが、
おっしゃるとおり、
あの給水のシーンは印象に残っています。
三浦春馬の表情もよかったです。
投稿: えい | 2008年3月20日 (木) 22時42分
ミチさん、こんばんは!
そうなんですよねー、あの給水シーンが良かっただけに、彼らの気持ちが通じるシーンをもう一息印象的に描いてほしかったです。
正統派の青春映画は好きなので、惜しかったです。
投稿: はらやん(管理人) | 2008年3月13日 (木) 22時25分
はらやんさん、こんばんは♪
あの最初の給水シーンはとても素晴らしかったですよね~。
あれと対になるシーンがあると思っていたのですが・・・。
練習後に奈緒子が渡した水(コップ入り)を雄介が受け取るというシーンはありましたが、とても対になっているとは言い難かったですね。
投稿: ミチ | 2008年3月11日 (火) 20時46分