「仮面ライダー電王」 いつか未来で
毎年夏に恒例の映画を公開していた時は、まだ「電王」という物語に乗り切れていませんでした。
けれども夏以降は物語の展開が特急のように早くなり、大団円に向かい電車道を突っ走る勢いに一気にはまってしまいました。
「電王」は史上最弱のライダーと呼ばれていたりもしました。
本作で仮面ライダーに変身するのは、野上良太郎という青年。
ありえないほど運が悪く、運動神経も鈍いというこの青年、確かに仮面ライダーになるベースとしては今まで一番頼りないかもしれません。
けれども彼は今までのライダーの中でも最もやさしいライダーと言ってもいいかと思います。
良太郎には人を思いやる気持ちがある。
記憶を奪われることの悲しみ、また記憶に苦しむ人たちの声が彼には聞こえる。
彼らのために良太郎は戦います。
やさしいことは弱いことではありません。
人を思いやれるやさしい気持ちは、強さです。
良太郎が体力的にとか、運動神経的に弱かったとしても、彼のやさしい気持ちによって彼のためにいっしょに戦う者(モモタロスなどのイマジンたち)が集まってくる。
いっしょに戦う者がいてくれてその力を結集できる、それがやさしさから生み出された本当の強さ。
それが中盤より登場のクライマックスフォームであり、ライナーフォームであるわけです。
イマジンが良太郎に憑依してフォームチェンジすることに最初はライダーらしからぬ違和感を感じていましたが、今思うとこの設定の斬新さと巧妙さに舌を巻きます(すみません、夏の映画の時はこの点を批判していましたが、僕の考えが浅かったようです)。
中盤以降からラストにかけての怒濤の盛り上がりはシリーズ構成をしている小林靖子氏の功績が大きいと思います。
小林氏と言えば仮面ライダーでも「龍騎」でもシリーズ構成をしていました。
こちらの作品でも13人のライダー、ミラーワールドという複雑な設定や、「正義」とは何かというかなり一面的な答えを出しにくいテーマをまとめあげた手腕がある方です。
「電王」については時という複雑なテーマ、多重人格のライダーという複雑な設定のため、シリーズ途中で破綻するのではないかという恐れもありました(最近では「ブレイド」や「響鬼」は途中で方向性変更を余儀なくされています)。
けれども「電王」では多重人格という複雑な設定の中で、それぞれのイマジンを特徴的な台詞回し、エピソードで個性的に表現したことによって、それらのキャラクターが(着ぐるみなのにもかかわらず)ほんとうに彼らが生きている仲間のように思えてくるようになりました。
多重人格を演じ分けた主演の佐藤健さんと、スーツアクターの高岩成二さん、また各イマジンの声を担当した声優の方の功績が大きいのはもちろんです(なかでもクライマックスフォーム時の高岩さんの演技は見事というしかありません)。
「龍騎」でもそうでしたが、最終回に向かい盛り上げ、きちんとまとめあげる構成の上手さも小林氏ならでは。
まさにクライマックスに向かう数話はおもしろかった。
同じように平成ライダーを多く手がけている井上敏樹氏は最後まで話を拡大し、あまりきちんとまとめあげない印象がありますが、小林さんはきっちりと最終回でシリーズのさまざまな謎には決着つけていましたね。
ハナの件は、けっこうびっくりしました。
ハナといえば、白鳥百合子さんの予期せぬ降板は脚本家としては、設定変更などがあり大変だったと思いますが、それもきちんとまとめあげたのもさすがです。
あと小林脚本の特徴的なのは、泣ける話が多いこと。
先にあげた井上氏はエキセントリックなキャラクターを好むのに対し、小林氏はとても普通な人の普通な想いを描くのが上手です。
失いたくない記憶、忘れてしまいたい記憶をかかえている人々。
それぞれの切ない想いがシリーズを通して描かれていたと思います。
「時」というものは人の「記憶」で作られている。
人の「記憶」が失われたときに「時」は消える、と「電王」の世界は設定されています。
僕らの「記憶」には物事の出来事の記憶という側面に加え、その出来事が起こった時の自分の気持ちの記憶という側面があります。
出来事の記録は文書や映像だけでもできる。
けれども人の想いは「記憶」の中に残る。
その想いが「時」をつくる。
その想いが「未来」をつくる。
良太郎にはモモタロスたちと戦ったときの想いが残っている。
彼の中にその想いがあればいつかまたモモタロスたちの巡り会えるかもしれません。
「いつか未来で」
「劇場版 仮面ライダー電王 俺、誕生!」の記事はこちら→
「劇場版 仮面ライダー電王&キバ クライマックス刑事」の記事はこちら→
「劇場版 さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン」の記事はこちら→
テレビシリーズ「仮面ライダーカブト」の記事はこちら→
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コメント
たいむさん、こんばんは!
イマジンたちが着ぐるみで表情が出せないにもかかわらずイキイキとしていたのは、スーツアクターさん、声優さんたちの力が結集したからできたのでしょうね。
最後の方には彼らに情が移ってしまって・・・。
ライダー枠は期待が大きい中、毎回新手の発想を取り込んで進化をし続けているので、制作者の方々には頭が下がります。
来週から新作開始なので、こちらも期待してしまいます。
投稿: はらやん(管理人) | 2008年1月25日 (金) 22時33分
こんにちは。
最初はどうなるかと思った「電王」。佐藤君の演技もさることながら、コミカルからシリアスまで、本当に生きてるかの個性的なイマジンたちイキイキしていて素晴らしい作品でしたね。
あまり真剣には見ていないけれど、今までも、これからも、平成の仮面ライダー枠は侮れませんね。
投稿: たいむ | 2008年1月25日 (金) 21時27分