「ヘルボーイ」 デル・トロ監督のバランス感覚はすばらしい
年末の総まとめで「パンズ・ラビリンス」のことを書いていたら、無性にギレルモ・デル・トロ監督の映画が観たくなって「ヘルボーイ」を観賞。
「パンズ・ラビリンス」は異なり「ヘルボーイ」はいわゆるハリウッド資本で撮った作品ですが、わかりやすいハリウッドフォーマットを守りつつも、デル・トロ監督らしさをきちんと出しているところは凄いですよね。
そもそもデル・トロ監督はコミックやアニメーション好きということですので(スリーアミーゴスの中では一番オタク度高し)、今までハリウッドに進出したいへんな目に合った作家性の強い監督よりも、ハリウッドで求められる派手でわかりやすいストーリー展開と自分の趣味の世界との折り合いをつけやすかったのかもしれません。
その趣味の世界というのは、他の作品にも共通していますがダークでゴシックでオカルトっぽいテイスト。
これは僕もけっこう好きな世界なのです。
もともと「ヘルボーイ」の原作からしてオカルティックな雰囲気が漂う作品。
僕は普段はアメコミは大味なので読まないのですが、この原作は別。
映画を観た後、マイク・ミニョーラの原作コミックを読んだのですが、これは凄い作品です。
ひとくくりにアメコミというジャンルにしてはいけないですね、まったく別物です。
そもそもアメコミはご存知のとおり、日本の漫画とは違い、幾人もの作者が書きつないでいます。
またストーリーを書く人と、絵を描く人は基本的に分業となっています。
だから日本の漫画と比べ作者の個性は出にくいと言えます。
けれどもマイク・ミニョーラはストーリーも作画も一人でこなして「ヘルボーイ」を描いています。
なので作者の趣味が非常に色濃く出ています。
細い線の独特のタッチ、映画の1コマを切り出しているような大胆な構図、白と黒の陰陽のはっきりとした色使い、これらがとてもスタイリッシュでカッコいい。
ストーリーもラブクラフトを彷彿させる感じがあり、このあたりも僕の趣味のど真ん中だったりします。
アメコミのイメージががらりと変わる作品なので、映画で興味を持った方は是非(なかなか売っているところ少ないですが)。
ちょっと脱線してしまいました。
映画の方はコミックよりも、一般受けしやすいようにアレンジはしてあります。
リズとヘルボーイの恋愛などもそうですし、マイヤースという普通の人間を出しているのもそういうところです。
コミックそのままだと趣味色が強いのでなかなか入り込めない人がいるかもしれないので、これはいいアレンジだったのではないかと思います。
このあたりのバランス感覚がデル・トロ監督は優れていますね。
ただ敵役の連中は監督の趣味が色濃くでています。
特にクロエネンなんかは。
改めて観てみるとマスクを外した時のクロエネンは「パンズ・ラビリンス」のペイルマンに似ている。
この気持ち悪い感じは監督の趣味なんだろうなあ。
怪物サミエルのグチョグチョした感じも同様。
サミエルの魚っぽい造形、あとはラストの怪物のタコっぽいデザインはラブクラフトのクトゥルー神話の影響でしょうね。
ラブクラフトはデル・トロ監督好きそう。
そういえば、超常現象捜査局にはデル・トロ監督定番の妖精のホルマリン漬けなどもありました。
改めて観るとデル・トロ監督がマイナーでオタッキーな自分の趣味の世界と、一般受けしやすいわかりやすさとのバランスをとてもよくとっているような気がします。
自分の趣味は作品の世界観などで出して、ストーリー構成はわかりやすいハリウッドフォーマットで。
とかく自分の色が強い監督は、一般に受けるところとバランスがとれず作品が破綻してしまいがちですが、この監督はそういうことはない。
とにかくバランス感覚がいいですね。
「ヘルボーイ2」も製作中だとか。
期待して待っていたいと思います。
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