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2008年1月14日 (月)

本 「暗殺者ロレンザッチョ」

先日「ジェシー・ジェイムズの暗殺」を観たとき、ちょうど読んでいたこちらの小説「暗殺者ロレンザッチョ」が同じテーマで驚きました。
扱っている時代が違いますし、作者も日本人ですし、でもテーマは同じ。
そういう偶然ってあるんですね。

この作品舞台となるのはフランス宮廷、時代はルネサンス以降フランソワ一世の治世。
主人公ロレンツィーノは、その時フィレンツェを支配していたメディチ家のアレッサンドロを殺害し、フランスへ逃亡していました。
彼だけが知るアレッサンドロ暗殺の真実を巡り、宮廷内の権力争いが王の愛人、太子妃、太子の愛人の間で繰り広げられます。

「ジェシー・ジェイムズの暗殺」と何が同じだったかというと、主人公ロレンツィーノの人物像がロバートにとても似ていました。
ロレンツィーノはメディチ家の分家に生まれました。
本人は自信も才能がありいずれ成功すると思って育ちました。
けれども成長するに従い、現実が彼の前に立ちはだかります。
メディチ家と言っても分家、権力を握るのはやはりいい家柄に生まれた者たち。
彼の才能も彼が思っているほど人には評価をされない。
彼は周囲にとってどうでもよい存在だったのです。
それは彼の自尊心をひどく傷つけます。
あきらめるには彼の自己顕示欲は肥大しきっていました。
そういうとき、彼はローマがプロテスタントに略奪される様を目撃します。
彼は知りました。
破壊によって自らの名を人の口にあがらせることができることを。
それが自分ができることであるということだと思ったのです。
彼はアレッサンドロを暗殺しました。
フィレンツェの最高権力者が殺されたのです。
一時はロレンツィーノの名も人の口にあがりました。
けれどもそれは次第に薄れていきます。
結局彼はどうでもいい男のままでした。

まさにロレンツィーノは「ジェシー・ジェイムズの暗殺」のロバートそのものであるといっていいでしょう。
自尊心によって罪を犯し、それでも結局は何も報われることのない男。
自尊心や自己顕示欲というのは誰でも持っているものですが、それを肥大化させずどうコントロールするかというのは人の生きる際の課題になります/
たまたま二つの作品で同じようなテーマをみましたが、これは人間に共通する悩みであるために小説や映画が扱ってみたいテーマの一つなんでしょうね。

メディチ家について書かれた本「メディチ家」の記事はこちら→

「暗殺者ロレンザッチョ」藤本ひとみ著 新潮社 文庫 ISBN4-10-123620-8

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