本「沈底魚」
第53回江戸川乱歩賞受賞作です。
エスピオナージ(諜報)もので、これは僕の好きな小説のジャンルです。
タイトルにある「沈底魚」とはスパイでいうスリーパーのことですね。
他国や他の組織に潜入して、ことが起こるまでそこにとけ込んで生活し、そして命令があったときには速やかに活動をする潜入者、それがタイトルの「沈底魚」の意味合いです。
諜報ものらしく、事件の真相は裏の裏に隠れ、いったん真実がわかったと思ってもそれが覆される。
誰が「沈底魚」なのか、主人公から見ると誰もが疑わしい。
そのあたりの展開はなかなか読み応えあります。
二転三転する展開はやや目まぐるしい感じもしますが、淡白な展開よりはスパイものはこのくらいが良いかもしれません。
話法は一人称のため主人公が知らない事実というのは描けないので、このような二転三転する話はかなり書き手としてはむずかしいかと思いますが、そのあたり新人作家としては齟齬なく書いているように思えました(一人称だと下手をすると読み手からみて卑怯な手をつかいがちですが、そんなことはありませんでした)。
最近の江戸川乱歩賞受賞作は、どうも小ぶりで読み応えのあるものがなかったような気がするので、こんなしっかりとした作品は久しぶりです。
作者の次回作に期待ですね。
「沈底魚」曽根圭介著 講談社 ハードカバー ISBN978-4-06-214234-2
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