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2007年11月18日 (日)

「パンズ・ラビリンス」 不透明な時代のファンタジー

先日、いつもお世話になっているブロガーさん方とお食事をした時に、みなさんが高評価だったので、観に行ってきました。
ギレルモ・デル・トロ監督なので興味はあったのですが、タイミングを逸していたので、お薦めいただいて良かったです。
デル・トロ監督と言えば「ヘルボーイ」。
コミック原作の映画は数あれど、一風変わったダークな感じで好きな作品です。
映画の影響で、コミックも買ってしまいましたもん。
ちょっと脱線ですが、コミックの「ヘルボーイ」は傑作ですよ、話はおもしろいし、画はとてもスタイリッシュで上手ですし。
アメコミのイメージが変わりました。

そんなデル・トロ監督のファンタジーということで、一筋縄ではないだろうと思って観に行きましたが、やはり巷にあふれるファンタジー映画とは一線を画する作品でした。
最近作られているビックバジェットのファンタジー映画は、悪と善が戦い、善は悪の強大な力に圧倒されつつも、最後には勝つという組み立てになっています。
「正義は必ず勝つ」という安心して誰でも見られる構造ですよね。
ある意味歴史が始まり物語が作られるようになってからずっと昔から続いているような構造で、飽きもせずみんな観に行くのは(特にファンタジーブームと呼ばれる昨今は)なぜなんでしょう?
なんだか世界的に先行きが不透明で(戦争とか環境問題とか)、20世紀のように人間は進歩して世界は必ず良くなっていくんだというような楽観的な未来感がなくなっているからなのかもしれないと思いました。
せめて映画の中だけでも、勧善懲悪ですっきりと気持ちのよいものを観たいというみんなの気持ちの現れなんかじゃないかと。

この映画の舞台となるのはフランコ政権時代のスペイン。
ファシズムが蔓延し、各地で抵抗運動は起こるも、ずっと国民が抑圧されていた時代です。
主人公の少女オフェリアは母親とともにその再婚相手であるフランコ軍の大尉の家に住み始めます。
その大尉は残虐非道な男で、その土地の住民を搾取し、抵抗運動を激しく取り締まり、また身重の妻に対してもまるで(某政治家が言っていたように)自分の息子を産む機械のように扱います。
当然オフェリア対しても愛情の欠片すらもちあわせていません。
そんな生きていくのに希望を持てない状況において、オフェリアはさまざまな物語を読みます。
彼女にとって本の中にある物語は現実から逃避できる唯一の場だったのでしょう。

<このあとネタバレありです>

この映画で語られるオフェリアとパンが出てくる物語は、この映画の中においての現実なのかわかりません。
たぶんすべて現実ではなく、パンも妖精もラビリンスもオフェリアの想像していた世界だったのでしょう。
ラスト近くでオフェリアがパンと話している姿を見た大尉にはパンの姿は見えなかったことからもわかります。
つまり彼女の観たハッピーエンドな世界は、彼女に悲劇が襲いかかったその瞬間に彼女が観た想像の世界なのです。
とても残酷で救いのない現実の苦しみから逃れるには、オフェリアは自分の作り上げた幸せな物語の中に住むしか道はなかったのでしょうね。
なにか彼女が現実を逃避し物語の世界に浸り込んだということと、昨今の勧善懲悪のファンタジーがもてはやされるこの状況というのはとても類似しているような気がしました。
映画の中だけでも「正義が必ず勝つ」という物語が観たい、と。
だって現実はそうはならないから。
なんだか現実を変えることができないと、みんなが思っているような気がしたりしてちょっと不安になりました。

最近スリーアミーゴズと称されるデル・トロ、キュアロン、イニャリトゥですが、共通して非常に現実を苦界と描いているような気がします。
キュアロンの「トゥモロー・ワールド」で描かれる未来は、子が産まれないという先行きの見えない世界。
イニャリトゥの「バベル」はコミュニーション不全に陥った人々の苦しみの連鎖が描かれます。
あの映画では多少の希望はあるも、コミュニーション不全の問題は解決しておらず、人類がこれからも背負い続けなくてはいけないものとなっています。
本作でも現実はとても厳しく、一人の少女の力では決して変えることのできない重みがあるように見えます。
最後はいい結果に終わるさという楽観的なアメリカ映画とアメリカ人と、そのすぐ隣の国なのに現実がとても苦しいもの、そして変えにくいものという風にとらえるメキシコ人というのは、かなりメンタリティが違うというのが表れているのでしょうか。
先行き不透明なこの時代において、安易なファンタジーのような現実逃避ではなく、「パンズ・ラビリンス」はファンタジーでありながらも、逆に現実に眼を向けさせる映画なのかもしれません。

ギレルモ・デル・トロ監督「ヘルボーイ」の記事はこちら→

ギレルモ・デル・トロ監督「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」の記事はこちら→

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コメント

花さん、こんばんは!

おとぎ話というのは元々はダークな雰囲気を持っていますが、本作はそのような感じが出ていた感じがしました。
現実に対して無力なオフェリアが痛々しかったですね。
ラストは賛否が分かれるところだとは思いますが、彼女が幸せと感じられればよいなと思います。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年11月30日 (日) 00時14分

厳しい現実の中で、空想の世界へ迷い込んでしまった少女が痛々しかったです。
一味違ったファンタジー映画でした。

投稿: | 2008年11月27日 (木) 22時55分

ケントさん、こんにちは!

ケントさんがおっしゃるとおり、ファンタジー部分はオフェリアの想像の世界だと思います。
彼女には辛い現実から開放されるのは想像の世界だけだったのですよね。
強い願いや強固な意志があっても、安易には夢は叶わないというニヒリズムのようなものを感じました。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年4月20日 (日) 14時31分

はらやんさんこんにちは、ケントです。TBお邪魔しました。
ファンタジーというには、重く悲しいお話でしたよね。
観る人によってかなり意見が異なるような作品だと思いますが、僕には素晴らしい映画に見えました。
「ファンタジーでありながらも、逆に現実に眼を向けさせる映画」とはなかなか言い得ていますね(^^♪
ファンタジー部分はオフェリアの願望と妄想だと思いましたが、はらやんさんはどう感じましたか?

投稿: ケント | 2008年4月16日 (水) 13時21分

こたえさん、こんにちは!

あのラストはハッピーエンドともとることができると思いますよ。
あれが死であるかどうか明示されていないので、最後にオフェリアにとって主観的に幸せな世界にいけたという風にとるという解釈もあると思います。
江戸川乱歩じゃないですが「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」ということなのかもしれません。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年1月12日 (土) 16時27分

カオリさん、こんばんは!

デル・トロ監督のテイストは独特なので好き嫌いあるかもしれないですね。
僕もグロいのは苦手なのですが、デル・トロ監督の作品は何故かOKなのです。
「バベル」にしてもこの作品にしても、おとぎ話のようなハッピーエンドではなく現実の過酷さみたいなものが伝わってきます。
オフェリアは現実として死んでしまったということですが、彼女の意識は彼女が幸せに生きられる世界にいけた(逃げたということではなく)ということでハッピーエンドであるという解釈もあるかもしれません。
つまり幸せは客観的な事象ではなく、主観的であるという意味で。
そう考えると「バベル」のラストにも似た一片の希望は残っていたような気もします。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年1月10日 (木) 20時26分

すみません、今頃…でもようやく見てまいりました。
いやー、確かにダークファンタジーでしたね~~!
でもあの結論を、最初「ハッピーエンド?」と思った
私の頭の構造こそがlabyrinthかもしれません(爆)

投稿: こたえ | 2008年1月 8日 (火) 23時54分

こんにちは。遅ればせながら観てきたのですが、グロさが生理的にダメでちょっと残念でした。
あの世界観と衝撃的なラストには息を呑みますね。さすがです。個人的には「バベル」のように、一粒でもいいから希望の光を抱かせてほしかった・・・と思います。

投稿: カオリ | 2008年1月 6日 (日) 11時50分

シャーロットさん、こんばんは!

>現実を映像と音の世界でどれだけ自分に重ねられるか共通項を見つけられるか、そんな事を想いながら見てます。
これ、僕もそんなところでてきました。
昨年は今まではあまり行かなかった単館系にも足を運ぶようになりました。
ブログを始めてから、映画を観てそれをきっかけに自分に照らし合わせていろいろなことを考えるようになりました。
そんなことがブログにも書けたらいいなと思っています。
頭からっぽで観れる大作も好きですけれど(笑)。

投稿: はらやん(管理人) | 2008年1月 3日 (木) 18時34分

ファンタジーは現実世界の上に成り立っているものという話は古いですが「ネバーエンディングストーリー」等がいい例ですよね。
物事はまさに裏表は一体なんだなって思えます。
だから現実から逃避して幻想の世界に逃げ込んでも、結局逃れた幻想の世界でも逃げばかりでヒーローにはなれないものですよね。
映画を見るスタンスが私はこの頃変わりました。
あくまでも現実逃避として娯楽作品を求めていた頃とは違い、やはり現実を映像と音の世界でどれだけ自分に重ねられるか共通項を見つけられるか、そんな事を想いながら見てます。だから心がイタイ作品ばっかり見てるんですよねえ;でもそれが人間だ!って言われてると妙に納得したりして。
オフェリアは現実逃避したのではなく、現実の自分とちゃんと向き合って問題解決をはかろうと努力した、素晴らしい女の子ですよね。

投稿: シャーロット | 2008年1月 3日 (木) 15時27分

コブタさん、こんにちは!

この作品、皆さん評価高いですねー!
ハッピーな夢の世界というよりも、過酷な現実の中にいるため、そういう幸せになれる世界を作らざるを得なかったオフェーリアの哀しさを感じました。
映像もデル・トロ監督らしいヘビーな感じですばらしかったです。

投稿: はらやん(管理人) | 2007年11月23日 (金) 15時37分

風情♪さん、こんにちは!
先日はどうもありがとうございました。
楽しかったですよね、またよろしくお願いします。

皆さんの評価高かったので、翌日早速いってきました。
確かにファンタジーでありながら、戦争のやりきれなさというのを描いている気がしました。
オフェーリアにとっては現実の世界の方が、苦界だったというのはちょっと悲しい気がしました。
けれど彼女の純粋な魂はあのような現実の世界では、生きにくかったのかもしれないですね。

投稿: はらやん(管理人) | 2007年11月23日 (金) 07時45分

ノラネコさん、こんにちは!

先日はありがとうございました。
やっぱり映画が好きな人で集まると深い話ができて楽しいです。
またよろしくお願いします。

みなさんがとても評価していたのでさっそく翌日にこの映画を観てきました。
いわゆるハリウッド系のファンタジーとは一味も二味も違う作品でしたね。
なんだか、哀しみみたいなものがずっと通奏低音のようにあるような。
メキシコの映画というのはそういう切なさというか無常観というのがありますよね。

投稿: はらやん(管理人) | 2007年11月23日 (金) 07時29分

こちらの作品、私も今年度の上位に来る作品でした。
それだけ、映像も物語も素晴らしく、あらいる意味で完成度が高いだけでなくとにかく魅せられたの一言だったように感じます。

おっしゃるとおり現実逃避の物語とみえて、過酷な現実をしっかり見せて現実に眼を向けさせる映画ですよね!

ひかりが強いからこそ陰がハッキリするように、この作品も現実がシッカリ描かれているから幻想もより濃くなっているうように感じました。

投稿: コブタです! | 2007年11月20日 (火) 19時09分

こんにちは♪
先日は楽しかったです。
また遊んでやってくださいね。

ファンタジーというフィルターを通して現実的な
戦争ドラマを見るのも初めてのように思えたしあ
のラストも悲しい結末だったけれどボクとしては
「幸」ととったので素晴らしく思えました。
ボクもノラネコさん同様に今年のベスト1か2かと
いったところです。(゚▽゚)v

投稿: 風情♪ | 2007年11月19日 (月) 10時09分

こんばんは。
昨日は久々にオバカな話ばっかりできて楽しかったです。
話にも出ましたが、これは今のところ今年のベスト1です。
生に死が侵食し、あまりにも悲しく切ないのに、どこか爽やかさすら感じる不思議な読後感。
メキシコ映画の勢いを感じさせる見事な一作でした。

投稿: ノラネコ | 2007年11月19日 (月) 01時48分

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