本 「男に生まれて 江戸鰹節商い始末」
主人公は現在も続く鰹節の老舗「にんべん」の八代目・伊勢屋伊兵衛、時代は幕末、時代が大きく動こうとしている江戸が舞台です。
商人が主人公なので、地味な物語かと思いつつ読み始めましたが、これがなかなかにおもしろい。
まずは荒俣宏氏らしく幕末の江戸商人の文化、風俗が情報量が豊かに描かれています。
それらが単なる知識のひけらかしではなく、さりげなく物語に織り込まれているところがさすがです。
商品券をはじめて作ったのが「にんべん」だとは知りませんでした。
「にんべん」はいつでも鰹節と引き換えできる「切手」を販売しました。
この「切手」が現代でいう商品券です(おこめ券みたいなものですね)。
幕末薩摩が江戸を攻めるという時期、薩摩の嫌がらせにより悪い噂を流され「にんべん」にはその「切手」の払い戻しを求める客が押し寄せるという場面があります。
その「にんべん」が直面する困難が、日本橋の他の商人たちの江戸っ子の心意気で救われるところが気持ちいい。
幕末というと侍を中心にした物語が多いが、その時代に生きていた商人を描いているこの物語は新しい視点ておもしろい。
幕府も、薩摩も利権や権力のために右往左往するなか、江戸商人たちが、おのれのプライドと先を見る力で激動の時代を生きていく姿は、現代を風刺しているようにも見えます。
世の中が世界が動いているのに、なんだか永田町の中のパワーゲームだけで動いている政治家(自民党もどうかと思うが、最近の民主党もいかがかと思う)や官僚・・・。
現実と離れたところで考えているそういう人たちとは異なり、民間企業は生き残るためにさまざまな工夫をしている。
そのあたりは幕末動乱期の江戸商人にもつながる気がしました。
先日読んだ同じ荒俣宏氏の小説「帝都幻談」に出ていた平田銕胤もこちらの小説にちらと登場。
最近の荒俣氏は江戸時代づいていますね。
「男に生まれて 江戸鰹節商い始末」 荒俣宏著 朝日新聞社 文庫 ISBN978-4-02-264410-7
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