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2007年6月 3日 (日)

本 「推理小説」

昨年フジテレビ系列で放送され、また映画化もされた「アンフェア」の原作小説です。
ドラマでは殺人予告小説事件から、募金型誘拐事件、バツマーク殺人事件と繋がっていきますが、原作は殺人予告小説事件を取り扱っています。
ドラマの方は、殺人予告小説事件から始まる一連のストーリーを新たに組み上げていったわけですね。
ちなみにドラマのタイトル「アンフェア」というのは、原作小説にもありますが殺人事件現場に置いてあった栞に書いてあった「アンフェアなのは誰か」という言葉からとっています。

先にドラマの方を見ているため、結末を知っているためということもありますが、原作小説はややもの足りない印象を持ちました。
犯人の性格はドラマ版とほぼ同じですが、それ以外のキャラクター(主役の雪平を含め)については印象が薄い。
ドラマの方に思い入れがあるので、仕方がないと思いますが。

原作と、ドラマとは殺人予告小説事件に関しては大筋のストーリーは変わりません(細部は異なりますが)。
けれども大きな違いが二つ。

まず一つは雪平刑事へのスポットの当て方。
原作では雪平は一刑事として事件を担当します。
そういう意味では事件に関しては雪平は部外者的でありますが、ドラマ版は事件の背景には雪平自身の生き方、人生が大きく関わりがあります。
ドラマは彼女の生き方の背景として、父親が死んだ事件の謎、自らが射殺した未成年犯罪者のことなどが丁寧に描かれ深みが増しています。
ある意味ドラマの事件は雪平を中心に構成されていて(それはドラマ後半明らかになりますが)、雪平が主役らしい存在感を放っています。

二つ目は「アンフェアなのは誰か」という言葉の意味合い。
ドラマではこの言葉は、犯罪を犯しながらのうのうと暮らしている者たち、そして彼らを放置している警察に対しての怒りの言葉として、すべての事件の底辺にある大きな意味で扱われています。
原作では先に書いたように事件の現場に落されていた栞に書かれている言葉としてだけ。
推理小説はフェアでなければならない、そしてリアリティとオリジナリティを持たなければならないという犯人の思想が表れた言葉として扱われています。

テレビドラマを制作したスタッフがすごいなと思うのは、原作ではほんの些細な言葉であった「アンフェアなのは誰か」という言葉の意味合いをどんどん大きく広げ、ドラマ全体を括るテーマとして設定したこと。
原作があるものをドラマ化、映画化というのは最近よくありますが、原作のエッセンスを抜き出しさらに何倍もスケールアップさせるのはなかなか上手にできないことではないかと思います。

なんだか小説のレビューというよりドラマのレビューという感じになってしまいました。
ドラマ版を好きだった方、ドラマ版と原作の違いを楽しむというのも一興かもしれません。

「推理小説」 秦建日子著 河出書房 文庫 ISBN978-4-309-40776-0

刑事 雪平夏見 シリーズ第二作「アンフェアな月」の記事はこちら→
刑事 雪平夏見 シリーズ第三作「殺してもいい命」の記事はこちら→
ドラマ「アンフェア the special コード・ブレーキング」の記事はこちら→
映画「アンフェア the movie」の記事はこちら→

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