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2007年6月22日 (金)

「監督・ばんざい!」 感じるのは北野監督の苛立ち

この映画を観終わって、映画を見た時に感じたことを反芻してみて、出てきた言葉は「苛立ち」でした。
これは映画を観た僕の苛立ちではありません(いや、観ていて映画には入れ込めない苛立ちは感じましたけど)。
それよりもなにか北野武監督の苛立ちというのをこの作品から感じました。

そもそも僕は北野監督の映画はあまり相性がよくありません。
「世界のキタノ」と称されるほど評価されていますが、いくつか作品を観てもあまりいいなあとか、おもしろいと思ったことがないのです。
僕の中での印象としてはどうも感情移入しにくい肌触り感があります。
うまく言えないのですが、鉄などの金属を舐めてしまった時の苦さというか冷たさというか、そんな感じです・・・(クールとも違う)。
どうも肌合いがあわないんですよね。
今まで観た北野監督の作品で、唯一おもしろいと思ったのは「座頭市」だったのですが、本作品でもこれだけが唯一興行が良かったと皮肉まじりに言われていたので、北野監督の作品の中では毛色の違ったものなのでしょう。
そのようなわけで本作品も観ようかどうか迷っていたのですが、世間であまり評判がよろしくないので、かえって興味を持ちました。
同時期に松本人志監督の「大日本人」が公開されたので、比較してみたくもなりました。

映画としては、本作品は全くおもしろくありませんでした。
まとまりがないというか、散漫というか・・・。
笑えるところがなかったわけではありません。
空手道場のシーンなどであった一連のボケのギャグ(たいこをたたこうとして手を叩いたり、バチをとばしたりの繰り返しのボケなどは往年のビートたけしを思わせる)は、「ひょうきん族」世代の僕は思わず笑ってしまいました。
ただこれはギャグとして受けてしまっただけで、作品としておもしろいということではなありませんでした。

冒頭の話に戻りますが、見終わって感じたのは「苛立ち」でした。
前半の映画を作ろうとしては中途で止めてしまうことの繰り返し。
そこから、北野監督自身が苛立ちを感じているように思いました。
伊武雅刀さんのナレーションで映画を作るときのきっかけ、止めるときのきっかけが語られますが、監督が作りたいというより、こういうのが当たるのではないか、こういうのは受けないみたいなことで始めたり止めたりしているような感じがでていたような気がします。
監督の周りの映画関係者、そして作品を観ている観客がやかましいというか。
なにか北野監督自身が、そういう映画関係者や世間の評価や評判がうっとうしいと感じているような印象がありました。
映画を観ていて笑えたのが、往年のビートたけしのような一発ギャグだったりしたわけで、こういうところに何か北野監督(ビートたけし?)のイキイキとしている感じがしました。
教育上よろしくないとかPTAからやり玉にあがっていたアウトサイダーであったビートたけしの時の方が、現在評価されている監督北野武よりも自由であったと感じているのではないでしょうか。
なにか全編から「世界のキタノ」、日本映画の巨匠として高い評価を受けてしまい、それによって「北野スタイル」として他からの押し付けられてしまった期待によって動かされてしまう、対応してしまうことに対する苛立ちが募ってきたように感じました。
あえてコントのような安い作りにしているのも、大作といったものに嫌気がさして、自分が自由におもしろがってやってたころのようにやってみたいという気持ちのあらわれなのかもしれません。
そんな苛立ち感が、初監督で自由に撮った感のある松本人志さんと好対照な気がしました。

松本人志監督「大日本人」の記事はこちら→

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コメント

こたえさん、こんばんは。

北野監督の閉塞感は感じましたね。
こたえさんのようにその閉塞感までの「道筋」を知っていた方がこの映画の意味がわかりやすいかもしれないですね。
「TAKESHI'S」観なきゃですねー。

投稿: はらやん(管理人) | 2007年7月26日 (木) 19時20分

はじめまして。いつもトラックバックありがとうございます。
私は(BLOGお読みになってわかるとおり(^^ゞ) 
むちゃくちゃなキタニスト(北野監督ファン)なので、TAKESHIS'では彼のあまりのさみしさに泣き、
この「監督・ばんざい!」でも閉塞感に苦しんで自らを壊そうとする姿勢に泣きました。
監督いわく、この映画は3部作の2作目。
TAKESHIS'で「ビートたけし」を、
この監督・ばんざい!で「北野武」を、
そして次の作品で「映画」を壊す、とのことですので、
できたらTAKESHIS'をご覧になっていただいたうえで、
次の作品も見ていただければ幸いです。(って私はオフィス北野の回し者ではありません(^_^;)

投稿: こたえ | 2007年7月26日 (木) 00時31分

hyoutan2005さん、こんにちは!

なかなかメッセージを受け止めにくい映画ではありました。
深読みしようとするといろいろ考えてられますが、考えすぎな気もしますし。
あんまり何かを狙って撮った感じは受けなかったですね。
なにかあるのだけれど、まとまらなかった感じはしました。

投稿: はらやん(管理人) | 2007年7月14日 (土) 15時19分

こんにちは。
北野監督が次の作品のために作った映画なのでしょうか?
それとも監督自身が純粋に楽しんで作って出来た作品なのか・・・、私にはやはりよくわからない部分が多かったです。不思議な位置の映画です。

投稿: hyoutan2005 | 2007年7月10日 (火) 13時41分

t-higuさん、こんにちは。

僕は「TAKESHI'S」は未見なんです。
あの時も観に行こうか迷ったんですが、結局行かず・・・。
本作は映画として楽しめたとは思わなかったのですが、北野監督がいろいろ悩んでいるように感じました。

投稿: はらやん(管理人) | 2007年6月24日 (日) 14時48分

おはようございます。

僕は、北野監督の映画はほとんど観たことないのですが、
今まで観た中ではまともなほう(観れる)という感じでした。
といっても、これと「TAKESHI'S」しか観たことないん
ですけどね...(笑)

投稿: t-higu | 2007年6月24日 (日) 09時12分

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