「海でのはなし。」 人間は考える葦である
NHKで放映しているのがとっても意外なバラエティ「サラリーマンNEO」の脚本も担当している大宮エリーさんの脚本・監督作品です。
主人公の楓も博士も、いまどきめずらしい生き方がマジメなタイプです。
宮崎あおいさん演じる楓は、父親の浮気を知ります。
実直な楓はそんな父親が許せないと思いますが、実は自分の母親の方が愛人であったことを知り、ショックを受けます。
そして前から慕っている年上の西島秀俊さん演じる博士(ひろし)に相談し、なぐさめて欲しいと思いますが、彼は優しくしてくれるものの、彼女を女性として扱い抱きしめることを拒否します。
博士は博士で人と深く付き合うことに対し、臆病な生き方をしている男性だったのです。
この映画のレビューだと楓の話を書くのが普通だと思いますが、僕自身は博士への共鳴度が高かったのでそちらの方を書いてみます。
僕もあまり人付き合いに積極的なほうではないのですね。
そういうことを僕を知っている人に言うと「冗談言って」みたいなことを言われるのですが、けっこう人と深くつき合うのに尻込みしてしまうきらいがあります。
「傷つくのが恐いから、淡々と生きていく」といったことを博士が言っていたかと思います。
なんかわかるんですよね。
でもそんな自分もいやだったりして。
博士はたまに帰った実家で、久しぶりに会った両親の生き方に幻滅しながらも、それに役に立てない自分にもげんなりします。
「なぜ子供である自分を頼らない?」と言いますが、それまで自分から親に頼れとも言っていなかったのだろうなと思います。
そういうころに負い目を感じていたりもして。
幸い僕の親は健康に暮らしていますが、離れて暮らしているためなにも面倒も見れていないし、まだ身を固めていなかったりするので、負い目を感じて足が遠のいたりもします。
そんな自分の状況が博士の描かれ方と妙に共感があったりしました。
「自分の生きている意味を見つけるためにあがいている感じだ」
とも言っていたかと思いますが、まさに自分もそんな感じですね。
楓は(彼女が思う)不純な行為で生まれた自分が、そもそも原罪を背負っていると言います。
自分の存在自体を否定しようとするんですよね。
でも博士はパスカルの言葉「考える葦」を引き合いに出し、人は考えること、感じることゆえに無限の可能性があると言います。
ああ、そうだよなとここも共感したところでもありました。
宮崎あおいさんは相変わらず上手ですね。
印象深かったのは、朝方の車の中のシーン。
父親の浮気にショックを受けた自分のことを博士がなぐさめてくれるのが、とても楓にとっては嬉しい。
楓はそのまま自分の気持ちを博士に伝えます。
けれども博士は困ったような表情を浮かべる。
その間はほぼ1カットだったと思うのですが、あおいさんの表情が笑顔から不安そうな表情に変わっていくところがとても上手。
彼女の心臓がばくばくいって、そして血が流れるのが止まりそうになるような思いというのが伝わってきました。
博士演じる西島さんはこういう無表情な役、合っていますよね。
ただ感情がないわけではなくて、その感情を表現できていない感じというのを、西島さんも上手に演じていたのかと思います。
はじめは言葉があまり棒読みっぽかったので、こんな下手だったっけと思ったのですが、狙いだったのかもしれません。
ラストシーンの博士が楓を抱きしめるシーン、良かったです。
あ、菊池凛子さんもでてましたねー。
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