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2007年3月 3日 (土)

本 「ケース・オフィサー」

「宣戦布告」で北朝鮮の原子力発電所テロをリアルに描いた麻生幾氏の小説です。
この作品では、イスラム過激主義のテロ、そして細菌攻撃(バイオテロ)を扱っています。

麻生幾氏はもともとは事件記者だったようです。
ウィキペディアによると公安関係ともパイプがあるということで、軍事関係・警察関係の描写はリアリティがあります。
そのためか氏の作品では登場人物も事件に巻き込まれ、無情にも死んでいったりします。
ハリウッド映画にあるようなご都合主義的な救いはありません。
あくまでも冷徹に事件を描いていきます。
以前「宣戦布告」を読んだ時、その硬質なタッチに驚いた記憶があります。

本作「ケース・オフィサー」もそのタッチは継続しています。
上巻はどちらかというと、警察のテロ対策部門の海外での収集活動を、担当官(ケース・オフィサー)と情報提供者との関係、感情を交え描いています。
このあたりの描写は他の作家にはないリアリティが感じられますね。
下巻では日本で発生したバイオテロが描かれます。
普通こういう小説や映画では事件は寸前に防がれるものですが、この小説ではその本格的な攻撃が開始されてしまいます。
病気が広まっていく様、人が救われず死んでいく様にはおそろしさを感じます。
けれども物語の中で楽観的に解決してしまって、ああ良かったで終わらず、事件が起こってしまうことをあえて描くことに作者の危機感を感じました。
先に書いたように作者は事件記者という経歴をもっている方なので、さまざまな情報に接することが多かったのでしょう。
そういう中でテロリズムに対する危機感を持ったのかなと思いました。

作風は重めですが、作品としてはエンターテイメント性もありますので、最後まで一気に読める小説だと思います。

「ケース・オフィサー<上>」 麻生幾著 産經新聞社 ハードカバー ISBN4-594-04689-4
「ケース・オフィサー<下>」 麻生幾著 産經新聞社 ハードカバー ISBN4-594-04690-8

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