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2007年2月 4日 (日)

「亡国のイージス」 原作小説のダイジェスト版に見える

少し前に「ローレライ」についての記事で、福井晴敏さんの小説は映画に向かないのではと書きましたが、改めて「亡国のイージス」を観ると、その思いは強くなりました。
表現の形態が異なるので、小説と映画を比べても仕方がないのですが、いくつか思ったことを。

原作の魅力は一つはキャラクター同士の絡み。
工作員として徹底的に教育され人間らしい気持ちを失っていた如月一等海士が、次第に千石先任伍長に心を許していく様子や、ヨンファとチェ・ジョンヒの関係などは、映画ではさらりと描かれています。
真田広之さん、中井貴一さん、寺尾聡さん、佐藤浩市さんなど一人だけでも主役をはれるほど恵まれた俳優陣を揃えながら(それゆえかも)、それぞれのキャラクターの書き込みが薄いように思えました。
原作はかなりのボリュームがあり、各登場人物の背景について丁寧に描かれているため、なぜその時その人物がそのような行動をとるのかの納得性があります。
けれども本作品ではイージス艦の反乱事件の経過を追うだけで精一杯になっているので、登場人物の考えがわかりづらく、観ていてしっくりと入ってこない印象を受けました。
当然制作者サイドもそういう危惧は持っていたのか、フラッシュバック的に過去を映したり、台詞でダイレクトでキャラクターの主張を言わせたりすることにより、少しでも人物を描こうとする努力をしているのも感じました。
けれどもそれが精一杯。
やはりあの原作を2時間ちょっとで消化するのはかなり厳しいのでしょう。
厳しいならばある人物に徹底的にフォーカスしてもよかったかもしれません。

もう一つ原作の魅力はトム・クランシーの小説のようなテクノ・スリラー感。
福井氏の小説ではかなり兵器テクノロジーの書き込みは丁寧でした。
映画では自衛隊の強力もあり、実物のイージス艦や戦闘機がフィルムに収められ、小説ではなかなかできない存在感を出していたように思えます。

そして福井氏の作品に共通して通じている、平和や戦争というものを真剣に考えてこなかった日本の国家、国民に対するいら立ち感。
これは中途半端。
ヨンファや渥美が劇中で、台詞でそのような主張をしていますが、ストレートかつ突然なので腹に入り難い。
やはり人物が描ききれていないため、台詞の納得性が低いような気がしました。

以上あげたような原作の魅力を映画ではすべて実現しようとマジメに取り組みすぎている気がします。
そのためどっちつかずとなり、映画がなんだか小説のダイジェスト版のような感じに見えました。
映画という小説とは違う表現なので、思い切って原作の切るところは切り、新しく加えるところは加えるといった割り切りが必要だったように感じます。

福井晴敏氏原作の映画「ローレライ」の記事はこちら→

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