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2007年2月18日 (日)

本 「名もなき毒」

同じ大沢オフィスの京極夏彦さんと宮部みゆきさんがほぼ同じ時期に「毒」をテーマにした小説を送り出しました。
片や「邪魅の雫」、片や「名もなき毒」。
テーマが同じだったのは偶然だったようですが、名だたる人気作家が同じテーマを選んだところがおもしろいですね。
ミステリーでの殺人を行う手法はいくつもあり、それこそその手法を数々の作家が考案してきました。
撲ったり、刺したり、絞めたりなど至極暴力的な方法もあるかと思えば、事故のように死ぬように仕組まれる知能犯的なものまでそれこそ枚挙に遑がありません。
その中でもアガサ・クリスティーなどがよく小説で使った方法が毒殺。
毒殺の最大の特徴は、殺人者が被害者を直接手をくだす必要がないこと、そのため女性など力がない人でも、相手を殺めることができます。
また仕掛けさえできれば、被害者が死す場面に立ち会わなくてもいいこと、大量の人に被害を与えることができること。
つまり毒殺は「手を血で汚す」ことなしに、実感を伴わず相手を害することができる手法といっていいでしょう。
直接殺害する場合に比べ、加害者にとって被害者がとてもバーチャルに見えるんですね。
実感をともなわない殺人と言いましょうか。
このあたり、京極さんも宮部さんも注目して小説を組み立てているようですが、まったく違う話になっているのが、読んでみるとそれぞれの個性がでていておもしろいです。

「五人の命を、ミネラルウォーターに毒物を混ぜるということだけの簡単な作業で奪ってしまうことができる<中略>そういう形で行使される(他人を意のままにする)権力には、誰も勝てん。」
小説の中である人が語る台詞です。
簡単でかつ強制的な毒という手段は、自分の怒りを自分勝手に誰かにぶつけようとする人にとっては至極便利なものなのです。
それを気をつけることだけでは防ぎようがありません。
それよりも他人に自分の怒りをぶつけようとする人の心に潜む毒、そのものを見なくてはいけないのだと作者は語っています。
人の中にある「名もなき毒」とは何か、それを何であるか見つけ、中和していかない限りは安らかに暮らしていけないのでしょうか。

「自己実現」という言葉を発明したことにより、安らかに暮らしていけなくなったというところも何か考えさせられました。
理想の自分を設定し、そこに至らなくてはいけないという強迫観念。
前向きに暮らすことはいいことなのですが、「自己実現」できなかったら悪い人生なのでしょうか?
冷静な自己分析がないなかでの「自己実現目標」の設定は苦しむだけといいます。
僕が知っている人でもちょっとそういうタイプの人がいたりして。
何か始終イライラしているようにも見えます。
何か理想の自分があって、そこに届かないためにイライラしているのでしょうか。
それは自分以外の人にもぶつけられ、周囲にも影響を与えるため、全体の雰囲気も悪くなります。
まさに毒のようにひたひたと伝わっていきます。
なりたい自分を描くことは大事です。
それのためにがんばれるから。
けれどもそれを達成できないからといって、自分も周囲も否定しないことも大事だなと思いました。

「名もなき毒」 宮部みゆき著 幻冬社 ハードカバー ISBN4-344-01214-3

京極夏彦著「邪魅の雫」の記事はこちら→

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コメント

hitoさん、こんにちは。

宮部みゆきさんの小説にでてくる悪人というのはとても不愉快な人が多いですよね。
こころやさしい登場人物も多い中、彼らは水の中に落された一滴の毒のようなものに見えます。
一滴でもその毒が垂らされると周りの人は巻き込まれ不幸になってしまう・・・。
そういう怖さを感じました。

投稿: はらやん(管理人) | 2007年12月23日 (日) 08時47分

miyukichiさん、こんにちは。

なんかもっと気楽にいきていけるといいのかなと思ったりもしますね。
京極さんの作品も面白いですよ。
一冊のボリュームはかなりあるので躊躇しそうになりますが、読み始めると止まらないのは宮部さんと同じです。
是非!

投稿: はらやん | 2007年12月22日 (土) 08時24分

TBありがとうございます。こちらからのが反映されないようで、すいません。

この中で蔓延る毒はとても不快なものでした。誰もが持っている部分が毒となって吐き出されるのかと思っていたのですが、ちょっと独特なもので・・

前作での関係がおぼろげで、再読してから読み直せばよかったとちょっと残念です。

投稿: hito | 2007年12月21日 (金) 09時54分

 こんばんは♪
 TBどうもありがとうございました。

>けれどもそれを達成できないからといって、
 自分も周囲も否定しないことも大事だなと思いました。

 ほんと、そうですよね。
 「自己実現」って言葉自体は聞こえがよいけど、
 強迫観念がついて回ると、
 おかしなことになりますね・・・。

 京極さんって、実は読んだことがないんですよ。
 たまたまなんですけど・・・。
 来年は挑戦してみようかな~。

投稿: miyukichi | 2007年12月16日 (日) 22時54分

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