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2007年1月 7日 (日)

本 「13階段」

この小説の映画化作品は劇場で観ました。
江戸川乱歩賞をとった小説が原作だったので、話題にもなっていたと思うけれども、あまり内容を覚えていませんでした。
山崎努さんが出ていたなあというのと、全体的にあまり良いと思わなかったという印象だけ。
今回調べてみたら、反町隆史さんが主演でしたね。
すっかり忘れてました。

さて小説の方ですが、作者の高野和明氏はこの「13階段」がデビュー作。
そして乱歩賞受賞です。
読んでみた印象ですが、映画より小説の方が全然おもしろい。
映画は反町さん演じる三上の過去のエピソードを膨らませていましたが、原作は比重が違いましたね。

小説の中盤で丁寧に書いているのが、死刑制度について。
非常に重い内容で、この制度について知らないことがたくさんあるのだなと思いました。
刑務官の南郷が刑に立ち会ったときの場面が描かれていますが、刑の執行そしてその後の刑務官の気持ちは想像したこともありませんでした。
作者も作品の中で「死刑の存廃論議は簡単に結論が出ることではない」と書いてありましたが、僕自身もどうすべきなのかまだよくわからないです。
けれども2009年には裁判員制度が導入することになります。
僕らも判決に関わるようになるかもしれないのですが、自分自身で対処できるのか怖いです。

重いテーマだけでなく、この小説はエンターテイメントとしても一級品です。
冤罪の可能性がある死刑囚の刑の執行が迫るというタイムリミットがある中の、過去の事件の真犯人の証拠さがしのサスペンス。
その中で南條と三上もそれぞれの過去を抱え、その記憶を恐れながらも、冤罪を晴らしたいという人間描写。
後半は一気に読ませてくれます。

文庫版の解説で宮部みゆきさんが書かれていますが、高野和明さんの小説には「社会に対して何らかの負債を持つ人間が、それを背負いつつも社会のために生きることはできるか。」というテーマが一貫してあります。
「13階段」はそれを真正面からとらえてかなり重いテーマになっているので腰がひける方もいるかもしれませんが、そういう場合は同じ作者の「クレイヴディッカー」「幽霊人命救助隊」から読んでみたらいかがでしょう。
両方とも「13階段」ほどヘビーではないですので。

高野和明著「K・Nの悲劇」の記事はこちら→

「13階段」 高野和明著 講談社 文庫 ISBN4-06-274838

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コメント

miyukichiさん>

小説はミステリーとして非常におもしろかったですね。
映画はうろおぼえなのですが、三上の描き方が全く違うような感じだったと思います。
基本的に映画は南郷視点で描かれているので、反町さんが演じている三上の気持ちは南郷から見えないこともあり、なんだか何考えているのかわからない男だった印象があります。
小説は出所してきた三上の世間の視線に対する不安な気持ち、被害者やその家族への複雑な思い、両親に対する申し訳なさ、等がしっかり描かれていたと思います。

またよろしくお願いします!

投稿: はらやん(管理人) | 2007年1月13日 (土) 18時54分

 こんにちは♪

 私は先に小説を読みました。
 すごいおもしろいですよね。
 その数年後(つい最近)映画を観ましたが、
 謎解きのところとかぐだぐだで、
 がっかりしちゃいましたよ。。

 死刑制度については、自分の中でもいろんな意見があって、
 なかなかまとまりません。
 ただ、最近の“頭のいい”犯罪者たちの
 「どうせすぐ出てこれる」っていう確信的な狡さを目にするにつけ、
 抑止力としての刑の重さは、必要なのかなとも思います。
 それでも、人が人を裁く以上、冤罪は避けられないし、
 そのあたりとのバランスが難しいんですが・・・。

 刑の執行を行う刑務官の責務の重さは、
 たしかにやりきれませんでしたね。
 かといって、麻痺してしまって平気になっちゃうのも
 またさらにつらいともいえるし、、、うーん、、、

投稿: miyukichi | 2007年1月 8日 (月) 15時56分

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