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2006年10月31日 (火)

本 「ブレイブ・ストーリー」

この夏公開されたアニメーション映画「ブレイブ・ストーリー」の原作です。
正直言って映画はいまいちかと思いました。
「ゲド戦記」でも思いましたが、何度も見たことがあるようなRPG的な世界に食傷した感じでした。

さて原作ですが、映画を観た後に読み始めました。
宮部みゆきさんは好きな小説家の一人ですが、今まで読んだファンタジーもの(「ICO」等)はあまり感心しませんでした。
ご本人がRPGがお好きらしく、そのファンタジーな世界を使っているのですが、あまりそこにはオリジナリティを感じませんでした。
ということで、あまり小説「ブレイブ・ストーリー」はあまり期待しないで読み始めたのです。

映画に比べ小説は主人公ワタルの現世のパートが丁寧だなと思いました。
また長編である分、幻界での旅のさまざまなエピソードの積み重ねがワタルを成長させていくところがよかったですね。

ワタルは両親の離婚という自分の力ではどうしようもない現実にさらされます。
あまりに利己的な大人によって傷つくワタルは、宮部みゆきの小説によく登場する少年です。
またワタルの学校に転校してきたミツルも過去に暴力によって肉親を奪われた子供でした。
どちらの方が悲劇的かというのではなく、自分ではどうしようもない悲しい状況に追い込まれた立場としては、この二人の少年は同じです。
ワタルとミツルは同じものを映した鏡像の関係と言えると思います。

鏡と言えば、この物語には「真実の鏡」と「常闇の鏡」という二つの鏡がでてきます。
「真実の鏡」は喜び、希望、善など象徴、「常闇の鏡」は哀しみ、絶望、悪のシンボルです。
遥か昔、幻界が生じた時、「真実の鏡」は割れ世界中に散り、「常闇の鏡」はあるところに封印されました。
「常闇の鏡」が封じ込められたということは、都合の悪いことは見ないようにしよう、なかったことにしようという、誰でも思ってしまう心の弱さを暗示しています。
しかし都合の悪いことはなくなってしまうわけではなく、見ていないだけでいつしか大きくなり、いつの間にか人はそれに飲み込まれてしまうでしょう。
そうしないための方法はその都合の悪いことに勇気(ブレイブ)をもって立ち向かうことです。
ワタルは現世での理不尽な出来事をリセットしようと幻界の旅を始めました。
しかし旅を通じて、哀しみや不幸にぶつかる度にそれをないことにすることはできない、一度できたとしてもその場しのぎにすぎないとわかります。
自分の幸福のためその場しのぎで他人を犠牲にしても、その後に来る不幸を避けることはできない。
不幸を受け止めていく勇気こそが必要なのだと。

これは多くの宮部みゆき作品に共通するテーマです。
そういう意味で「ブレイブ・ストーリー」は宮部みゆきさんの考え方がはっきりとでている代表作と言えるでしょう。

「ブレイブ・ストーリー<上>」 宮部みゆき著 講談社 文庫 ISBN4-04-361111-0
「ブレイブ・ストーリー<中>」 宮部みゆき著 講談社 文庫 ISBN4-04-361112-9
「ブレイブ・ストーリー<下>」 宮部みゆき著 講談社 文庫 ISBN4-04-361113-7

宮部みゆき著「今夜は眠れない」の記事はこちら→

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ブレイブ・ストーリー(宮部 みゆき) 「ヴェスナ・エスタ・ホリシア。再びあいまみえる時まで。幻界に、現世に。人の子の生に限りはあれど、命は永遠なり。」 映画化なので復習がてら読んでみました。 あ、あれ前読んだときは普通と思ったけど、なんか今回はうるっとじわ... [続きを読む]

受信: 2006年11月16日 (木) 16時01分

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